13 Episode 12 Last's Past I.txt




スキル、それは人が先天的に有する才能だと言われている。
例えば身体能力に関するスキルがあれば、無い人とは比べ物にならない動きができるし、魔法強化のスキルを有していれば、魔法という超常の現象を扱うことができる。
そしてそのスキルによって戦い方を決め、職業という分類を与えられることになる。

だからスキルとは、人の才能を具現化したものだと言われている。

……けれども、それは決して正しくは無い。

何せスキルとはあくまでその人間の能力を強化するものでしか無いのだから。
才能が1しか無ければスキルで倍加されても2にしかならない。

つまり、いくらスキルがあろうが元から才能が3ある人間には勝つことはできないのだ……

スキルが無ければ魔法は使えず、身体能力も全く及ばない、それが今の常識だ。
けれどもそれはただの思い込みでしか無い。
何せ、スキルがなかろうが人は魔術を使えるし、気を扱うことにより身体能力を強化することが出来るのだから。

「スキルなんてあくまで指標さ」

魔力と気、そんな二つの概念を僕が教えてもらったのは、偶然師事することができた超一流冒険者達からだった。
彼らは、《ヒール》しか使えないという致命的なハンデを負ってまで、それでも何とか強くなろうと足掻く僕に、強くなるための可能性を与えてくれた。

人がスキルに頼ることによってようやく利用することができる力、魔力と気の概念と、その力を使うための触りを教えてくれたのだ。

僕が彼らに師事していたのは数ヶ月。
それだけでは完璧にその二つの力を使いこなすことなんてできなかった。
それでも僕は、必死に頑張ってその力を手にして、それでも足りない部分を組み合わせることによって改良して。

ようやく、一流の冒険者と呼ばれる下層に辿り着くことが出来るようになった。

そこまでの力を僕が手にするまでには血の滲むような修練が必要だった。
たしかに僕は人よりも器用で、魔力や気の扱いだって早く身につけることができた。
けれども、身につけるまでには酷い苦労があった上、身につけてからも僕は自分が使えるように改良しなければならなかった。

それでも僕は諦めず実力を追い求めていって。

どれ程努力しても認めようとしない冒険者達に嘲られる中、そうまでして僕が実力を得ようと、そう思えたのは過去に出会ったたった一人の少女の存在が理由だった………




◇◆◇




スキルとは才能を強化する効果は有していても、決して才能そのものではない。
そのことを今僕はきちんと理解している。

……けれども、冒険者になった頃の僕はそんなこと全く知る由もなかった。

治癒師のスキル、それは他のスキルに比べて珍しいものだった。
だからといって強力なわけではないのだが、冒険者または騎士達は慢性的な治癒師不足に陥っていたのだ。

ーーー だから、迷宮孤児であったにもかかわらず、治癒魔法強化のスキルを持っていることが分かった僕は、治癒師育成機関へと入らされることになった。

それはとんでもない幸運だった。
迷宮孤児、それは迷宮都市の冒険者が一夜の過ちで産んだ後捨てたり、また冒険者の両親が死んだりして出来た孤児でかなりの数が存在していた。
そしてそんな中、正規の教育機関に入ることができるのは一体どれほどの割合か。
それを知っていたからこそ、僕は自分が治癒魔法強化のスキルを有していた幸運に感謝して、迷うことなく治癒師育成機関に入ることを了承した。


……そして、それから一月も経たないうちに僕は《ヒール》しか使えないことが明らかとなって治癒師育成機関から追放されることになった。


最初、僕は何が起きたのか理解できなかった。
何せ、スキルは才能と同じなのだと思い込んでいて、だからこそ自分が《ヒール》しか使えない無能だということが信じられなかったのだ。
才能があると連れてこられたはずなのに、実は才能など一切無かった、その事実は大きく僕を打ちのめして。

……けれども、そのことに呆然としている時間は僕には無かった。

治癒師育成機関で成績が優秀であれば騎士団に入る道もあった。
だが追放された今、僕には冒険者になる道しか残されていなくて、生きていくためにはその道を選ぶしか無かったのだ。

……だが、冒険者に入ってもなお僕は無能として扱われていた。

もし、《ヒール》だけではなく一つ上位の回復魔法を有していたら違ったかもしれないが、《ヒール》という戦闘中には全く役に立たない治癒魔法しか使えない治癒師を誰もパーティーに入れようなどとはしなかったのだ。

だから冒険者達は僕を無能の役立たずだと嘲り、暴力まで振るうようになっていた。

……でも、そんな状況になってもまだ僕は状況を悲観してはいなかった。

それでも、将来有名な冒険者になれるかもしれないと自分を励ました。
今から考えれば、それは奇跡の成り上がりから一気に堕ちた衝撃による現実逃避だったのかもしれない。
だがそれは現実逃避だとしても、僕が日々頑張る理由としては十分だった。
それから雑用に近接戦闘の練習、そしてギルドの書庫で魔獣の知識を得て他の冒険者のサポートに徹しようとした。
せめて他の冒険者に受け入れてもらえるようにと。

……けれども、そんな僕の努力を冒険者達が受け入れることはなかった。
いやそれどころか僕を嘲った。
それは無駄な努力だと、誰も認めようとはしてくれなかったのだ。

……そんな状況に僕は心が折れかかっていた。
僕の心はもう限界を迎えかけていたのだ。


ーーー しかし、そんな状況は臨時でとあるパーティーに誘われたことで変わることになった。