鍛冶屋で海のモンスター用に特別に作って貰った投擲用の槍と、切り札とも言える刃の破片や屑鉱石のたっぷりと詰め込まれた樽を購入した後、レイとセトは早速とばかりに港へとやってきていた.
　港を見た時に感じたのは、驚きと納得.
　驚きは少し前まで港にあれだけ存在していた冒険者達がもう殆ど残っておらず、今港にいるのは大部分が船に荷物を積み込む人足達だった.
　少ないながらも残っている冒険者は、恐らく出港する船の護衛として雇われた者達なのだろう.
　納得は、あれ程大量に停泊していた船の数が見て分かる程に減っていたことか. レムレースを倒してからまだ2日しか経っていないというのに、その情報は完全に広まっており、これ以上停泊料金として無駄な金を使いたく無い船が早々に出港したのだろう.
　勿論昨日の朝一番で出港した船に関して言えば、本当に怖々とした出港だった. 港には停泊している船の船長や船主達が集まって息を呑んで見守っている中、資金的にこれ以上港にいられない船がギルドや行政府、あるいは他の船主達から金を受け取って出港したのだ. その結果がどうなったのかは、今の港の様子を見れば分かるだろう. 利益に聡い商人達は我先にと出港しており、あるいは新しく入港している船の姿すらもある.

「そう考えると、ちょうど昨日今日に入港した船は運が良かったんだろうな」

　レムレースという、海中から船を襲うモンスターと遭遇することなく入港出来たのは間違い無く幸運だっただろう.
　そんな風に思いつつ、港に配属されている警備兵に港から出る手続きをして貰う.

「いや、レイとかいったか. お前さんのおかげでようやく港も落ち着いてきたよ」
「俺が来た時は混雑していたから、あれが普通に見えたんだけどな」

　ギルドカードとセトの首に掛かっていた従魔の首飾りを渡しながら世間話をし、すぐに許可が出る.

「手続きはこれでいいぞ. けど、もうレムレースがいないってのに何で海に出るんだ？」
「今までいたのがどちらかと言えば山の方にあるギルムの街だったからな. 海のモンスターを相手にしてみたいってのもある. 素材とかはギルドで買い取って貰えるし」

　そんなレイの言葉を聞き、どこか呆れた様な表情を浮かべる警備兵.
　警備兵にしてみれば、わざわざ自分からモンスターとの戦いを望むレイの気持ちが分からないのだろう. 特にレイは、レムレースに懸けられた賞金こそまだ受け取ってはいないものの、その素材を売り払って大金を手に入れたと警備兵の間でも噂になっているのだから.
　そんな警備兵の困惑に気が付いた訳でも無いだろうが、レイの視線は早く海へと出たいセトへと向けられる.

「それに、セトの食事も用意しないといけないしな」

　その言葉に、レイとセトがどれだけ食べるのかを噂で知っていた警備兵は心底納得した表情を浮かべる.
　あくまでも噂ではあるが、レイとセトが寄った屋台や、食料を売っている店の売り上げが1割程上がっていると聞いたことがあったからだ.
　勿論そこまで大量に金を使っている訳では無いのであくまでも噂でしかないのだが、それでも以前街中で警備兵がレイとセトの買い物しているところを見た時にはその意見に納得出来るものがあった.

「確かにこれだけでかいと1回の食事量も多そうだしな. ……よし、行ってもいいぞ. ただ、出来れば次からはこの港から直接じゃなくて、一旦街の外に出てから海に向かってくれると助かるな. 一応ここは船に関しての手続きをする場所だから」

　警備兵のその言葉に、一瞬目を見開くレイ.
　これまで海に出るというのは殆ど港から移動していたし、あるいはレムレースを引きつける為に海の上空を飛ぶ時も港から直接飛んでいた為にその辺がすっかり気が付かなかったのだ.

「悪い、明日からは気を付ける」
「ははっ、そうしてくれ」

　警備兵からそう声を掛けられ、セトの背中へと跨がろうとしてふと気になることがあり、警備兵に向けて改めて声を掛ける.

「そう言えば、マジックアイテム船を持っているパーティはどうしたか分かるか？　確か何組かいたと思うんだけど」
「ん？　ああ、あいつらなら殆どが昨日にはエモシオンの街を出て行った筈だ. 何組かは残っているだろうが、その何組かも近い内に出て行くだろうな. マジックアイテム船を持っているってことは一定以上の実力を持っているだろうし、稼げる場所は他にもあるんだろうよ. 賞金首を狙ったり、普通にモンスターを倒して素材を売ったり」
「……そうか」

　微妙に残念そうな顔をするレイ.
　実戦で使えるマジックアイテムの収集を趣味にしているレイにしてみれば、出来ればマジックアイテム船が欲しかったというのもある. 特に今回のように海中にいるモンスターを討伐する場合、レイ以外の人手が欲しい時には必須のマジックアイテムなのだから.

（セトが俺以外にも数人程乗せられるようになればいいんだろうけど……ま、そのうち成長してくれることを祈るしかないか）

「何か用があったのか？」
「あのマジックアイテム船を譲って貰えないかと思ってな. 金についてはレムレースの賞金や素材の買い取りでかなり余裕があるだろうし. まぁ、賞金が実際に手に入るのはもう暫く先だが」
「あー、なるほどな. けどマジックアイテム船はかなり高価……というか希少性を考えると、そう簡単に譲るような真似はしないと思うぞ. 素直にどこかのマジックアイテムを売ってる店で買った方が早いと思う」

　警備兵の言葉にしょうがないと頷き、改めてセトの背へと跨がる.

「しょうがない、今回は取りあえずマジックアイテム船は諦めるとするか」
「ま、あの手のマジックアイテムは稀少だからな. 狙ったからってそう簡単に手にいれられるような物じゃない. 噂だと、ダンジョンとかで見つかることもあるって話だが……」
「……ダンジョンか」

　レイの脳裏をエレーナの姿が過ぎる.

（対のオーブのようなマジックアイテム狙いだったが、マジックアイテム船とかが手に入るのならそれもいいかもしれないな）

　そんな風に内心で納得し、セトに出発の合図を出そうとしたレイに警備兵が再び声を掛ける.

「従魔の首飾りとかは正門の方に渡しておくから、戻って来る時は港じゃなくて正門の方に回れよ」
「ああ、助かる. セトッ！」
「グルルルルゥッ！」

　レイは短く感謝の言葉を述べ、跨がったままセトの胴体を軽く蹴り合図を出す. すると次の瞬間には、セトが高く鳴きながら数歩の助走の後で翼を羽ばたかせ、空中を駆け上げるようにして移動していく.
　その様子を地上から見上げながら、警備兵の男はセトの鳴き声によって自分に集中している周囲の視線をどうするべきか真剣に悩むのだった.





　何処までも広がる水平線を眺めつつ、レイは時折海面へと視線を向ける.
　目的である海中のモンスターの姿を探しているのだが、港から飛び立って約1時間. 幸か不幸か一向にその姿を見つけることは出来ずにいた.

「グルルゥ」

　飛び立つ時は勇ましい鳴き声を発していたセトにしても、モンスターの姿が見つからないとさすがに飽きてきたのか、まだ探すの？　とばかりに喉を鳴らしながらレイの方へと振り向く.

「そうだな、もう少し探してもモンスターの姿が見つからないようなら一旦陸に戻って休憩にするか」
「グルゥ」

　レイの言葉に頷き、気を取り直したように上空を飛ぶセト.
　レイとセト自身は全く気が付いていなかったのだが、実は現在エモシオンの街周辺にモンスターの姿は殆ど無い. それは海中のみならず陸上でも同じだった. 何故か. その理由は至極単純で、レイがレムレースを強制転移させるのにグリムに頼ったことがある.
　レムレースを探査する為にソナーの如く放たれたグリムの魔力と、その直後に起こった強制転移の際に使われた魔力. その2つで使われたリッチとしての圧倒的な魔力に、周辺のモンスター全てが恐れをなして逃げ出していたのだ. それ故にレムレース討伐後の出港にしてもこれ以上ない程にスムーズに進んでいたのは、レイに取っては皮肉と言うべきだろう.

「うーん、本気でモンスターがいないな. セトの目でも見つけられないんだろう？」
「グルゥ」

　ごめんなさい、とでもいうように喉を鳴らすセト.
　そんなセトの首を気にするなと撫でるレイ.

「こうしていても見つからないんなら、休憩後はちょっと遠くまで出向いてみるか. エモシオンの街の近くだと見つからなくても、沖の方に行けば多分いるだろうし. ……いるといいなぁ」

　どこか自信なさげに呟いたその時、突然セトが下を……海面を見ながら鋭く鳴く.

「グルルルゥッ！」
「モンスターを見つけたのか！？」Ray followed Sett's gaze, thinking so, but there were two ships there. It's not strange in itself. Some say they trade in fleets of ships. But the two ships were close in distance. Usually, the distance between a ship and a ship is several hundred meters, and if you don't do so, it's about one kilometer away. However, Ray's gaze was at the point where the two ships were almost in contact. It was also obvious at a glance what was going on there when we saw arrows and magic going on and off between ships.

"Pirate?"

　Pirates originally existed in this area. As long as it is near Emocion, the largest port city in the kingdom of Milliana, it could certainly have been the last place for pirates. But then a REM race appears and begins to attack the ship.
　There would have been no problem as a pirate if the ship being attacked was bound for Emocion or just a ship departing from Emocion, but there would have been no way of distinguishing the ship being attacked by the monster Remrace. As a result, a significant number of pirate ships were sunk, and as a result, the pirates who decided that if they stayed here, their damage would not be ridiculous, withdrew from the area. But...

"It's quite early to come back," I was probably sneaking my men into the city of Emocion... well, luckily or badly. From this perspective, you can only say that you're unlucky. Set!"
"Gurgling!"

　In response to Ray's call, Sett descends toward the ship.
　He must have noticed the approaching set. Either way, the bow and magic attack were ended, and cheers were raised from one of the ships who knew Ray and Sett existed.

"If we're happy to come, it seems that they're on the other side. Then..."

　Give Seto a signal and go down to the side of a suspected pirate ship and call out.

"I'll ask you, are you a pirate ship.

　In that voice, most of the people on board look at the sudden appearance of the Gryphon, and several of them grind their teeth.
　Having returned to the area knowing that Remrace had been killed, most pirates knew of the adventurers who had knocked him down. It was natural to hear that the adventurer was subservient to the Gryphon. This made it impossible for them to win against adventurers who could win the REM race, and all they could do was grind their teeth.
　The unfortunate thing at this time was that the pirates had little information circulated by their men hiding in the city of Emocion. Pirates hiding in the city could not know and inform the pirates that they were so powerful that they were nicknamed in the war against the Vestian Empire, let alone carrying the Gryphon. So...

"Oh, my God! Death!"

　One of the pirates throws his hand axe at Ray, hoping to revive himself rather than hold on to it quietly.
　But the spinning hand axe never reaches Ray, and is easily knocked down into the sea by a blow to Sett's forefoot.

"...oh? Well, apparently you don't mean to be caught in a quiet way. Do you wish to be the scum of the sea here?"

　Throw the spear out of the mistling with the words. The next moment it breaks through the floor beneath the axed pirate's feet and disappears onto the ship.

"Well, what are you going to do? Let's ask again. Will you continue to fight me and sink the ship, or will you quietly be caught and sold off as a criminal slave? Choose whichever you like. I'm not short of money right now, and I don't care."

　After seeing Ray's blow now, he must have decided that he would have no chance of winning the battle. Most of the pirates chose to surrender, rather than be sunk into the sea and all of them killed. In the midst of all this, a very small number of them attacked Ray instead of becoming criminal slaves, but were again knocked out of consciousness by a few broken ribs.
　The reason why the pirates were not killed at this time was simply because they judged that if Ray sold them off as a criminal slave, they would not kill them in vain, and it would have been Ray to say that it was Ray who had no mercy.
　The ship being attacked was not particularly badly damaged, but instead returned to the sea with some reward money, and Ray returned to the city of Emocion with the pirate ship.