フランソワは、差し出されたダーブの手を取らないという選択肢はなかった.
　自分だけでは、どうやってもレイに勝てるとは思えない.
　そうである以上、この建物の中にいる者達……それこそ、フランソワよりも強い者がいる裏の組織から派遣されてきた者に頼る必要があったのだ.
　フランソワが自分の手を握ったのを見て、ダーブは笑い声を上げる.

「ふぉふぉふぉ. 私の手をとってくれて、ありがとうございます. 今回の一件においては、色々と大変なことがあるでしょうが……それでも、お互いに頑張りましょう」
「……そうね. そう言ってくれると、私としても嬉しいわ」

　ダーブにそう告げるフランソワだったが、本人が心の底からそれを望んでいる訳ではないというのは、フランソワの表情を見れば明らかだ.
　だが、ダーブはそれを承知の上で、何も言わない.
　実際、レイの命を狙うというのは、一人でも多くの……それも強者の手が必要なのだ.
　そうである以上、フランソワが嫌々だろうと何だろうと、自分達に協力してくれるというのは、非常にありがたいことだった.
　だが……様々な組織から派遣されてきたが故に、中にはそんなフランソワの態度が気にくわないと思う者もいる.
　何しろ、ここにいるのはギルムという辺境……いや、魔境とも呼ぶべき場所に進出し、それでも駆逐されなかった組織から派遣されてきた者達だ.
　当然のように組織の中でも腕利きで……同時に我の強い者が多い.
　そのような者にしてみれば、フランソワの態度が気にくわないし、何よりも自分達はバックがいるのに、フランソワはそれもいないのに――無理矢理当て嵌めるとすれば見つけてきたダーブか――この場にいるというのが、面白くない.

「おいっ、その態度は何だ！　てめえはここにいる中でも一番の下っ端だろうが！　自分の立場を弁えてるのか！？」

　そう叫んだのは、黒装束を身に纏っている男.
　……こうして気が荒いのは、元々の性格もあるが、それ以上に男の部下達がレイによって捕らえられてしまったというのが大きい.
　湖の偵察に向かったのだが、そこにレイがいたのが大きかった.
　しかも捕らえられた仲間を助け出そうとした者達までもが捕まったり殺されたりといったことになっているのだ.
　裏の組織というのは、実力もそうだが面子も大事だ.
　そういう意味では、この男の組織はレイによって実力に疑問を抱かれ、面子も思い切り潰された形となっている.
　自分の組織に愛着があるだけに、男にとって自分の組織が侮られている今の状況は、決して面白いものではない.
　そのような状況でフランソワのような、気の合わない奴が出て来たのだ.
　それに対して、冷静に対処しろというのは無理だった.
　フランソワの方も、ここで自分が引き下がればこれから先はずっと侮られたままとなる.
　これからのことを考えると、フランソワとしてはそれは絶対に受け入れられない.

「別に私は下っ端になる為にここに来た訳じゃないわ. レイの首が欲しいから来たのよ. 少なくても、貴方程度の男にどうこう言われる筋合いはないわね」
「ほう」

　フランソワの言葉を聞いた黒装束の男は、言葉に暴力の臭いを強く滲み出させながら、小さく呟く.
　元々気の長い方ではない男だけに、もしここでもう一押しがあれば、ここで戦いが始まるだろう.
　……いや、ここに集まっている者達のことを考えれば、戦いではなく殺し合いと表現するべきか.
　ともあれ、今の状況はまさに一触即発といったところだったのだが……

「そこまでにして貰いましょうか」

　そう、声が響く.
　その声を発したのが誰なのかは、それこそ考えるまでもなく明らかだ.
　部屋の中にいた者たちの視線が、声を発した人物……ダーブに向けられる.
　ダーブの様子は、今までとあまり変わらない.
　それこそ、今回の一件で集まった時と違いはないように思える.
　だが……それはあくまでも表向きのことだ.
　一流の暗殺者達にしてみれば、ダーブの放つ気配は僅かにだが……確実に変わっていた.
　今の状況を思えば、そんなダーブが本気を出せば一体どうなるのか.
　ここに集まった者の中でも、間違いなくトップクラスの実力を持つと、誰もが認めてしまった.
　いや、ダーブという人物の経歴を少しでも知っていれば、それこそ最初からダーブがこの中でトップクラスだろう.
　……トップクラスでトップではないのは、やはりそれぞれが自分の実力について一定の自負を持っているからか.

「レーベルセスの丘……か」

　この場に集まっていた男の一人が呟く.
　フランソワはその言葉がどのような意味を持っているのかは分からなかったが、フランソワ以外の面々はその言葉の意味を十分に理解していたのだろう.
　表情を厳しく引き締め、ダーブに視線を向ける.
　その視線を向けられたダーブの方は、周囲の様子を全く気にせずにフランソワと黒装束の男に視線を向けるだけだ.

「私達がここに集まったのは、あくまでもレイの……深紅のレイの首を取る為です. それを忘れるような人は、いませんよね？」

　風船のような体躯をしているとは思えない程、身軽に跳躍を繰り返しながらダーブが告げる.
　ダーブの口から出たその言葉は、聞いている者に頷くという選択肢以外を与えないような、そんな不思議な力を持っていた.

「そうね. だからここで無意味な争いをするべきじゃないわ. もし相手を見返したいのなら、それこそ深紅を倒して実力を認めさせればいいだけでしょ」

　女の一人がそう告げると、不思議と周囲に漂っていた空気が幾分か楽なものになる.
　そんな様子を見て、ダーブは口を開く.

「さて、そのような訳で早速本題に入りますが……この場合、問題なのは深紅がギルムにいないということですね」
「ああ、何でも最近は生誕の塔とやらで寝泊まりしているらしいな」

　そう告げた黒装束の男は、再び湖の様子を探りに行った部下達のことを思い出したのか、舌打ちをする.
　だが、そんな黒装束の男には構わず、男の一人が口を開く.

「でも、僕が聞いた話だと、毎日のようにギルムには戻ってきてるらしいよ？　トレントの森で伐採された木を持ってきたり、領主の館に行ったり」
「そうだな. ……うちのところの連中も、その時に仕掛けて失敗したよ. 相手を油断させる演技はかなり上手かった筈なんだが」

　はぁ、と. 男の一人が言えば、別の男も自分の組織の中でも下っ端が捕まったと嘆く.

「あらまぁ、何だかんだと皆さんの組織は結構な被害を出しているんですね. 私の組織はまだ情報を集めている最中だったので、被害は出ていませんが」
「けっ、鈍いから被害を免れただけだろうが」

　黒装束の男が被害を出していないと言った女に聞こえるように呟くが、女の方はそんな言葉を特に気にした様子もなく聞き流す.

「それで、どうします？　こうして各組織の腕利きが集まったんですし、出来れば全員で協力したいと思いますが」
「馬鹿を言うでない. これだけの人数が集まって、それで皆が協力出来ると思うてか？　それこそ、下手に被害が大きくなるだけであろう」

　中途半端な腕を持つ者であれば、ある程度は協力するといった真似が出来るかもしれない.
　だが、ここに集まっているのは、いずれもが一流と呼ぶに相応しい腕を持つ者達だ.
　つまり、自分独自の戦い方が存在している.
　そのような者達が下手に協力しようとしても、それこそお互いの実力が発揮出来ないだけだ.
　そう告げる男の言葉に、話を聞いていた者達の多くが頷く.

「なら、何でわざわざこうして集まったんだ？」
「それは考えるまでもないだろ？　仕掛けるのは別々でも、それで偶然遭遇した時に同士討ちをしないように. ……来る前に聞いてなかったのか？」

　それぞれが協力してレイを襲うのではなく、それぞれが襲う時にこの場にいる者の邪魔をしない.
　また、レイについての情報を各自で持ち寄る.
　これは、その為の話し合いの場だった. ……ダーブがフランソワを連れてきたことで、色々と流れが滅茶苦茶になったが.

「そう言えば、そんなことを聞いた覚えが……でも、レイの情報だろ？　何だかんだと、結構広まってるんだよな. それこそ、中には突拍子もない噂とかあるし」"Oh, yeah. Ray has been famous for the last few years, right? He's become a crimson nickname in a few years. ... It's annoying, isn't it?"
"You've heard that you've trained yourself as a disciple of a wizard, and you've got Sett at that time, and something like that... I don't know how to get a Gryphon."

　Everyone talks like Ray or crimson, so if anyone is listening to this story, they won't know if it refers to the same person.
　...however, it will soon be known to the famous Ray.

"Whoahoo. I understand what you want to say, but the first thing you know about his ability is to defeat Rey. ... both scythe and spear are magic items, and the scythe is the magic engine, and he can master various magic tricks, including the magic of fire."
"The most famous of them is the Tornado of Fire, though it won't work in the guillem or nearby, or even in the forest of Trent,

　Ray was famous for using a tornado of flames, but the people here are assassins.
　With a small group attacking Ray, you don't have to worry about being caught in a tornado of flames.

"What a nuisance, a wizard, and a close combat."

　Yes, yes, yes.
　Everyone who hears the opinion nods.
　Even Darb's nod proves how exceptional Ray's fighting style is.

"And there's the Gryphon Seto, too, and if you're unlucky, the Princess General, or the Guildmaster before Gillum, or the Vihela, who was called a wild beast in the labyrinthine city of Egzil."
"... let alone the latter, it hurts that Ray is basically working with Sett."
"Well, is Ray the tower of his birth now? He sleeps near there, so the party members don't have to worry about it."
"Well... the question is, how do you knock Set down?"
"It's not just a Gryphon, it's a rare species, and it's a monster of rank S, isn't it?"

　The more you talk, the more you understand how difficult it is to defeat Ray.
　The people gathered here are all the skills of each organization.
　Francois is also very strong in terms of its fighting power.
　Despite the fact that they are all there, I don't see any chance of winning considering the difference in military strength with Ray.

"What's troubling about Seto is that he's free to fly, as well as his offensive power. Even if we manage to chase Ray down, he'll be able to escape into the sky when he's in Seto." ...Darb, can you do anything about it?"
"It's impossible,"

　High…it was a dive that could jump rather than jump, but it was still a jump.
　If Seto, who can really fly, escapes into the sky, there's no way he can catch up.

"Then, if you're going to attack, you'll be in the guillem. If you're outside, you can fly on the set, but if you're in the guillem, you can't do that without thinking."
"The question is whether Ray can be hunted down that far... but isn't it harder to use long-handled weapons in the city than outside the guillem? ... No, before Ray puts out his weapons in the first place... that's what the assassination in the crowd seems to be more successful."

　Everyone turns their minds to the assassin's opinion.
　The real assassins, as the female assassin said, are often caught in a crowd, or in some cases enter the other person's house as maid or butler and use poison, and so on.
　The reason why the people here couldn't think of it is that the people who gathered here were skilled, and they were capable enough to defeat the opponent even if attacked head on, rather than being confused by the crowd.

"Then we'll have to work together if that's how we assassinate each other."

　When one of the men says so, everyone nods... his gaze shifts to Darb.
　Its balloon-like build stands out badly and is clearly not suited to being mixed up in crowds.
　With that kind of gaze on him, I was wondering if I could do it as a street performer.