20 Episode 20




 勇者ギルドでオークロード退治を申請した俺は、三人の教え子とともに街の大衆食堂で昼食をとると、その足でファブル村へと向かった.

 ファブル村は、オークロードが潜むと目されている洞窟の最も近くにある村だ.

 俺は村にたどり着くと、まず村長の家へと向かった.
 村人に案内されて、村で一番大きな木造の住居へ.

 家の扉をノックして魔王ハンターとして街から来た旨を伝えると、奥の応接室へと通された.

 応接室にいたのは二人.
 村長と思われる老人と、もう一人、腰に剣をさげた男だった.

 剣をさげた男は、左腕を包帯で巻いて吊るしていた.
 怪我をしている様子だ.

「おおっ、あなたがたが魔王ハンターとして来てくださっ……た、方々なのです、よね……?」

 村長と思しき老人は、最初俺たちを歓迎するような声を上げたのだが、後半は疑問符へと変わった.

 まあ俺たちの姿、見た目だけだと三人の幼い美少女を連れた優男ぐらいにしか見えないだろうし、無理もない.

 俺は特に気にせず、村長と思しき老人に向かって手を差し出す.

「リンドバーグの街の勇者ギルドから、魔王の情報を受けてきました. あなたは村長どのとお見受けしますが──そちらの方は?」

「お、おお、そうですか. 失礼をいたしました. 確かに私がこの村の村長です. ──そしてこちらは、我が村の守り手(まもりて)の勇者、トーマスでございます」

「トーマスです. よろしく」

 包帯の男──トーマスは、包帯をしていないほうの右手を差し出してきた.

 ちなみに村長が言った「守り手」というのは、勇者の中でも村などの小集落に滞在して、その集落の日々の防衛にあたる人々のことだ.

 集落によって守り手のいるところといないところとがあるが、弱いモンスターによる襲撃程度ならこの守り手だけで即時の撃退が可能なので、村人から徴収した自治会費から給料を出して守り手を抱えている集落も、決して少なくはない.

 俺は村長との握手を終えると、次にトーマスとも握手をする.

「ブレットです. 今は魔王ハンターが本業じゃないんですが──これが俺の今年のステータス検定の結果になります」

 外見から不安を抱かれている可能性を懸念した俺は、自己紹介代わりに自分の勇者カードをトーマスに渡して見せた.

 勇者カードは、毎年一回行われる勇者のステータス検定試験の結果を表したカードだ.

 魔導撮影機で撮影した勇者の本人確認写真とともに、測定した各種ステータスや、そこから導き出される認定勇者レベルなどが記されている.

 そして、俺の勇者カードを見たトーマスは、驚いたというように目を見開いた.

「なっ……!? ど、どうしてこんな高レベルの方が、こんな案件に……」

「いや俺、さっきも言いましたけど、今は魔王ハンターが本業じゃないんですよ. 勇者学院で教師をやっていまして. ──それでこいつらに、実戦経験を積ませてやりたくて」

 俺はそう言って横手に退き、俺の後ろに控えていた三人の教え子たちを示した.

 それを受けて、イリスが慌ててぺこりと頭を下げ、リオも軽く会釈する.
 さらにメイファが興味なさそうにしていたのを見て、イリスが無理やり頭を下げさせた.

 それを見たトーマスは、またも驚いたという表情を見せる.

「ほ、本気ですか……? こんな可愛い……じゃなかった、こんな幼い子供たちを、実戦に出すなんて……」

「ええ. でも勇者学院ができる前の時代には、みんなやっていたことですよ. ベテランの勇者が、まだ幼い勇者を実戦に同行させて面倒を見ながら育てる. スキルの訓練や座学だけじゃ身につかないものもありますから」

「まあ……そうですね. 勇者学院を卒業していても、実戦を経験していない勇者は危なっかしいですからね……」

 トーマスはさすがに現場で活動している勇者らしく、俺のやり方の意義をすぐに分かってくれたようだった.

 これが勇者協会の上のほうのやつらを相手にすると、まるで通じないからなぁ…….

 と、俺はもう一つ、気になっていたことをトーマスに聞く.

「ところでトーマスさん、失礼ですが、その左腕はやはり──オークロードに?」

 俺のその不躾な質問に、トーマスは神妙な面持ちでうなずいた.

「はい. 恥ずかしながら、村人が見かけたというオークを討伐に向かって、そこで魔王化したオークに出遭ってこのザマです. 私の力では、命からがら逃げてくるのが精一杯でした」

「治癒魔法は使えないですか」

「はい. 修得していれば便利なんでしょうが、私には適性がなくて. いずれ街に行って治癒魔法をかけてもらおうとは思っているのですが、いま私がこの村を離れてしまうと、村のことが心配で」

 なるほどな.
 だったらちょうどいい.

「じゃあトーマスさん、その怪我、治癒させてもらっていいですか?」

「えっ……? は、はい、もちろんですが……」

「よし、それでは──イリス」

「は、はいっ!」

 俺が呼ぶと、イリスがびしっと背筋を伸ばした.
 うん、緊張しすぎである.

「聞いての通りだ. 出番だぞ」

「え、で、でも……」

「大丈夫だ、何度も練習しただろ. それにどう転んだって、何も迷惑をかけることなんてない. 自信を持ってやってみろ」

 俺がそう言ってイリスの頭をなでると、イリスは目をバッテンにして、耳まで真っ赤になってぷるぷるとした.

 が、やがて──

「わ、わかりました……やってみます」

 そう言って瞳に決意を宿し、トーマスの前まで歩いていった.

「あの、トーマスさん、失礼します」

「あ、ああ」

 Thomas looked a little embarrassed and reluctant for his age.

 Yeah, yeah, I know what you mean, Thomas.
 How can a man not be nervous when a beautiful girl like Iris comes on to him?

 But you can't.
 If you look at my girl in an unpleasant way, I'll use Maifa's spear and shoot out both of your eyes with a double thrust.

 Aside from the joke in my brain...

 Iris stood in front of Thomas and took a deep breath.

 He then folded his hands as if in prayer.
 A glow of magical power begins to cover Iris' entire body.

 Incidentally, there is no need to pose like that when using magic, but I think that is Iris's habit, or her way of creating a magical image.

 Iris is working very hard right now.
 Seeing her student like that, I couldn't help but give her a shout.

"Iris! You can do it, you can do it! You can do it!

"...... Brother, shut up. ...... It's hard for Iris to concentrate.

 Maifa gave me a nudge.
 I'm sorry.

 I'm not sure if you've heard of it or not, but I have.

"Heal Water!

 The lovely yet dignified voice of Iris echoed through the reception room.
 At the same time...

 And then...
 At the same time, a glistening drop of water fell from the air on Thomas' left arm.

 As the drop of water fell on Thomas' left shoulder, a light tinged with the magical power of healing spread over his entire left arm.
 And then...

 Then, with a look of surprise on his face, he spun his left arm in a circle.

"Oh, ......! Oh, my God, I can move my arm! And the pain is gone! Thank you, my little hero!

Thank you, little hero! I'm glad you're feeling better.

I have something to thank you for. ......! Well, I don't mean to be rude, but can I have my usual fee?

"What, what, ......?

 Iris was handed a gold coin by Thomas.

 As the troubled Iris looked at me with a look of confusion, I nodded to the girl.

I nod to the girl and say, "Fine, take it. It's a fair reward for Iris's work.

"Well, let's see, ...... yes, I understand. If you say so, sir. ......

 Iris stared at the gold coin in her hands, then clutched it tightly and held it in front of her chest.
 And then...

"Heehee~

 Iris smiled happily.

 It was the first money that Iris had earned on her own.