63-063-Flash, Maru's sword!



 王都ムーリアを出発してから3時間、僕らは、ディオル遺跡近くの街道で、馬車を降りた。

(やっと着いたぁ)

 揺れない地面に足を着き、僕は大きく伸びをして、固まった身体をほぐす。

 周囲に広がっているのは、緑の草原だ。
 大荒れの海のように起伏が大きくて、所々に10~30メートルぐらいの高さの岩が生えている。

 村も街もない。
 本当に、街道の途中である。

(あ、森だ)

 ここから坂のような草原を下ったずっと先に、濃い緑色の木々が密集している。

「あそこね?」

 隣に来たソルティスが、風になびく紫色の髪を押さえながら呟いた。
 僕は、頷く。

「うん、きっと」

 あそこに、ゴブリンたちがいる。
 僕らが殺さなければいけない魔物たちが、あの森の中に潜んでいるんだ。

(やるぞ、マール)

 覚悟と共に、右手を握りしめる。

 ソルティスは、そんな僕の横顔を見つめて、「ふぅん?」と妙に感心した顔で呟いた。

 僕らが短い会話をしている間、イルティミナさんは、馬車から大型リュックやサンドバックみたいな皮袋を下ろし、キルトさんは御者さんに支払いをしていた。馬車は、いったん近くの村で待機し、6時間後にもう一度、この場所まで来てもらう手筈になっている。

 僕は、視線を巡らせる。

(……ん?)

 森があるのとは違う方向、起伏のある草原の中腹に、小さな建物が見えた。

 石造りの古い建物だ。
 風化して一部は壊れ、半分以上が、地面の下に埋まっている。

「ね、ソルティス? もしかして、あれがディオル遺跡かな?」
「ん?」

 僕の指差す先を、彼女も見る。

「あぁ、そうかもね」

 やっぱり。

「じゃあ、あそこにアスベルさんたちがいるんだ」
「アスベルたち、探索だっけ?」
「うん」

 彼に、僕のクエストを選ぶ手伝いをしてもらったことは、馬車の中で話してある。
 もちろん、リュタさんやガリオンさんとの一幕は、言ってないけど。

「でも、あの遺跡、小さいね」

 僕は、正直に思ったことを言ってみた。

 あの遺跡は、小さな神殿みたいだ。
 探索なんて、すぐ終わってしまう気がする。

 ソルティスは、肩を竦めた。

「見える部分はね。でも、ディオル遺跡は、地下に3階層ぐらい広がってたはずよ」
「地下?」
「そ。遺跡自体は、50年前から見つかってる。でも、先月、4階層目への隠し通路が見つかったのよ」
「へぇ?」

 じゃあ、アスベルさんたちは、その4階層を探索してるのかな?

「一応、王国の『魔学者』たちが、そこを調べる予定。アスベルたちは、その前に、危険な罠や魔物がいないかを調べたり、それらを排除するのが目的ね」
「なるほどね」
「ま、アスベルたちも青印だし、そんな危険もないと思うけど」

 ふぅん。

(でも地下ダンジョンか。……いつか行ってみたいな)

 冒険者としての血が騒いでしまう。 

 コツン

「イタッ?」

 後頭部を、ソルティスの大杖で殴られた。

「マールさ? 他人のクエストはいいから、まず自分のクエストに集中しなさいよ」
「あ」
「さっきはいい顔してたのに、これで減点ね」

 …………。
 そうだった。

(僕は今、試験中だった)

 集中しろ、マール。

「ん」

 僕の変わっていく表情を見て、満足そうに頷くソルティス。

 イルティミナさんとキルトさんも、馬車が立ち去って、こちらへとやって来る。

「お待たせしました」
「2人とも、どうかしたか?」
「ううん」
「別に」

 僕らは、首を振る。
 そして僕は、大きく深呼吸して、覚悟を決めて言った。

「じゃあ、みんな行こう」
「はい」
「うむ」
「はいよ」

 3人は頷き、そして僕らは4人揃って、草原の先にある森へと歩きだした。

 ――さぁ、ここからが本番だ。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 森の中を、僕が先頭になって歩いていく。

(え~と……太陽の位置は?)

 時々、木々の隙間から、方角を知るために確認する。
 これを怠ると、迷子になる。

 アルドリア大森林で暮らしていた頃も、同じように塔を目印にして、森を歩いたっけ。ちょっと懐かしいな。

「ふむ」
「ちゃんとやっていますね」
「ちぇ~」

 後ろから、2人の感心した声と、1人の残念そうな声がする。
 ……いや、ソルティスさん?

(それにしても、こう見られてると緊張するなぁ)

 まるで見張られている気分だ。
 試験なんだから、仕方ないんだけどね。

 ま、気にしないようにしよう。

(よし、集中集中!)

 植物の匂いが充満する世界を、僕は、ゆっくりと歩いていく。

 と――そこに別の匂いが混じった。

「水の匂いだ」

 後ろの3人は、顔を見合わせる。

「わかるか?」
「いえ」
「ぜ~んぜん」

 いや、本当だって。

「ですが、マールは前にも、同じようにして川を見つけましたので」
「ほう?」
「……マジで?」

 イルティミナさん以外は、半信半疑みたいだけど、僕は構わず歩いていく。

 草木を分けながら、5分ほど進む。
 やがて、背の高い草を分けた先、僕らの目の前に大きな池が現れた。

「本当にあったの」
「……マールって、犬じゃないの?」

 2人は驚いた顔だ。
 イルティミナさんだけ、「さすがマール」と満足そうに頷いている。

 それは、長さ30メートルほどのひょうたん型の池だった。
 水の透明度は、とても高い。
 その水の中を、たくさんの魚が泳いでいるのがわかる。中には、1~2メートルはある大物もいた。

(うん。この水なら、間違いなく飲み水になるし、魚も取れる)

 僕は、池の周りをゆっくり歩く。
 それこそ、赤ちゃんがハイハイするような速度で、だ。

 絶対、痕跡を見逃さないぞ。

「ふむ。わらわは、反対周りで調べよう」
「え?」

 いいの?
 僕の試験なのに? 

 驚く僕に、キルトさんは笑った。

「全てを、そなた1人にやらせる気はない。言ったであろう、『サポート役に徹する』と」
「う、うん」
「やらせたいことがあるなら、我らに命じよ。なんでもしようぞ」

 なんでも……命じていいの?
 年上の美女に、そんな風に言われると、ちょっとドキッとする。

(いやいや、こんな時に) 

 自分を叱って、気を取り直す。

「じゃあ、お願いします。ソルも、キルトさんと一緒に行ってくれる?」
「はいよ」

 彼女も、素直に応じてくれる。

(ま、大丈夫だと思うけど、やっぱりツーマンセルの方がいいよね?)

 イルティミナさんは、ちょっと嬉しそうに笑った。

「では、私は、マールとですね?」
「うん」
「フフッ……2人きりですね」

 …………。
 やめて、意識しちゃうから!

 赤くなりそうな頬を、パンパンと叩く。集中、集中!

 そうして二手に別れ、僕らは、池の周りを歩いていく。
 そして、痕跡はすぐに見つかった。

「あ……これ、足跡?」

 水を含んだ柔らかい土に、小さく凹んだ跡がある。
 イルティミナさんが頷いた。

「間違いありませんね、ゴブリンの足跡です」
「やっぱり」

 彼女は顔を上げ、唇に白い指を当てた。

 ピューイ

 鳥の鳴き声みたいな口笛の音。
 多分、大声を出したら、ゴブリンに気づかれるからだろう。

 やがて、キルトさんたちがやって来る。

「マールが、痕跡を見つけました」
「そうか」
「ちぇ~」

 だから、なんで残念そうなのかな、ソルティス君?

 小さな足跡は、木々の向こうへと続いている。その部分の草が折れて、やっぱり獣道みたいになっている。

(この先に、ゴブリンがいる)

 落ち着け、マール。

 自分に言い聞かせ、僕は深呼吸する。 
 そして、空を見た。

「…………」

 雲が流れている。

「何やってんの、マール? 早く行きましょ」

 ソルティスが急かす。

「うん。でも、ちょっと待って」

 僕は、自分の指を、口に咥えた。
 すぐに出す。

 唖然とするソルティスの前で、僕は、濡れた指を空に向けた。指の前方がヒンヤリする。

「よかった、こっちが風下だ」
「あ……」

 少女は、ハッとする。
 風下ならば、こちらの存在を、ゴブリンに臭いで察知される可能性は少ない。

 年上の魔狩人2人は、頷いた。

「ふむ、冷静じゃな」
「むしろ、ソルの方が気づかなければいけませんね」
「……うぐぐ」

 悔しそうなソルティス。
 でも僕は、そんなことを気にする暇はなかった。

「行きます」

 緊張感を込めて、口にする。

 3人も表情を改めた。
 大きく頷く。

 それを確認して、僕は、獣道の奥へと、ゆっくり足を踏み入れていった――。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 10分ほどして、僕は足を止めた。

「どうしました?」
「血の匂い」

 イルティミナさんに、僕は短く答える。

 この森の先から、鉄のような血の臭いがただよってくる。
 後ろの3人が、顔を見合わせた。

「わかるか?」
「いえ」
「……また、犬マールね」

 より慎重に獣道を進んでいくと、ようやく3人もわかったようだ。
 表情が、魔狩人のそれになっている。

(あの木の奥だ)

 僕は、しゃがんだ。
 それこそ犬のように四つん這いになり、草に隠れながら、木の奥が見える位置へと近づいていく。

 3人には、手で『そこで待ってて』と伝える。

 そして、最後の草を分けた先に、

(――いた)

 ゴブリンだ。

 赤褐色の肌をした小人鬼たち。
 数は、5匹。 
 奴らの手には、毛玉ウサギの死体があって、その手足を引き千切り、血の滴るソレを生のまま口にしている。

 こっちに気づいている様子はない。

 手前の木に寄りかかってるのが、1匹。

 奥の地面に座っているのが、3匹。

 岩に座っているのが、1匹。

(……よし、位置は覚えた)

 僕は、音を立てないように注意して、3人の元に戻った。
 見たままを、報告する。

「ゴブリン、5匹いた。食事に夢中で、こっちには気づいてないよ」
「そうか」
「どうします?」 
「決めるのは、マールでしょ?」

 僕に視線が集まる。

 しばし考える。

(なんだろう、この感覚?)

 口や手を血に染めるゴブリンたちを見ても、まるで怖くなかった。
 むしろ、

(ゴブリンって、あんなに小さかったっけ?)

 と驚いている。
 前に見た時と、大きさは変わっていないはずだ。でも、印象が違う。

 そして、妙な確信があった。

(――多分、僕は勝てる)

 5匹のゴブリンに。

 それが錯覚かは、わからない。
 でも、わからないからこそ、試そう。

 これは試験だ。

 僕自身も、自分を試してやろうじゃないか、うん。

 ――覚悟は、決まった。

「まずは僕1人で、仕掛けます」

 僕の宣言に、3人は驚いた顔をする。

「キルトさんとソルティスは、ここで待機しててください。万が一の時は、援護を頼みます」
「ふむ」
「わかったわ」
「イルティミナさんは、反対側に回り込んでください。ただし、風上にまで回らないよう気をつけて。もしゴブリンが逃げようとしたら、それを仕留めてください」
「承知しました」

 3人とも、僕の作戦に反論はしなかった。

 きっと見極める気だ。
 僕のことを。

「じゃあ、始めましょう」

 そして、僕らは動き出した。

 イルティミナさんが音もなく、草木の向こうに姿を消していく。キルトさんとソルティスを残して、僕も、また犬の姿勢で、イルティミナさんの消えた方とは反対側から接近する。

 1番近いのは、木に寄りかかるゴブリンだ。

(……落ち着け)

 僕は、長く長く、息を吐いた。

 ……前回の失敗を、覚えている。

 何もできなかった。
 だから、その理由を、今日まで一生懸命考えた。

(理由は、2つだ)

 1つ目は、僕の視野が狭かったこと。

 あの時の僕は、ただ目の前にいるゴブリンしか見ていなかった。だから、横から別のゴブリンに襲われて、危ない場面があった。

(もっと全体の状況を見る)

 今回は、目の前にいるゴブリン以外の位置や動きも、しっかりと把握しておくんだ。

 そして理由の2つ目。
 それは、イルティミナさんの言うことを、素直に聞こうとし過ぎたことだ。

『死角は作らず、1対1の状況を作る』

 これ。
 もちろん彼女のアドバイスは、間違っていない。

 ただ僕は、それを守ることに固執して、状況をまるで見ていなかった。

 目的は、『ゴブリンを倒すこと』だ。
 彼女のアドバイスは、その手段でしかない。

 なのに僕は、それを忘れて、『手段』を『目的』として動いてしまった。

 意味もなく木を背にして、ゴブリンたちに遠くから石を投げられ、それを防ぐために自分で死角を作って、そこを襲われ、もう少しで殺されかけた。

(もう……履き違えない)

 あのアドバイスは、あくまで手段。
 目的は、『ゴブリンを倒す』こと。

 心の中に、刻み込む。

 大丈夫。
 僕はもう、あの時とは違う。

 キルトさんに鍛えられたおかげか、身体が軽い。そして、戦い方のイメージが次々に湧いてくる。

「……よし」

 口の中だけで呟く。

 ――そして僕は、『マールの牙』の柄を握り、隠れていた草むらから飛び出した。

 タンッ

 1歩、木の横に踏み込む。
 同時に抜刀した刃で、そこに寄りかかっていたゴブリンの首を撫でた。

 シュッ

『ギ?』

 赤褐色の肌が斬れ、頸動脈から吹きだした紫の血が、木の幹や草むらに降り注ぐ。

 ゴブリンはキョトンとしたまま、失血で意識を失い、そのまま地面に倒れた――その瞬間には、僕はもう、次のゴブリンに向かっている。
 狙いは、地面に座っている3体。

 1体の後ろに到着した瞬間、その首を刃で撫でる。

『……アギ?』

 噴水のように飛び散る鮮血。
 それは、他の2体のゴブリンにも降りかかり、彼らはようやく僕に気づいた。

『ギギッ!?』
『グヒャア!』

 驚きと怒りを混ぜながら、その手に剣と棍棒を持って、立ち上がる。

 ドカッ

 僕は、首を斬られたゴブリンの死体を、思いっきり蹴飛ばす。

『ギャゴッ!?』

 それは片方のゴブリンにぶつかり、そのバランスを崩して転倒させる。

(これで1対1だ!)

 アドバイスを工夫して、別の手段にした。

 そして僕は、残ったゴブリンに襲いかかり、そのゴブリンは迎え撃とうと大きく剣を振り上げる。でも、その構えは、キルトさんの動きに比べて、あまりに遅く、そして隙が大きい。

(胴が、がら空きだ)

 僕は、そこ目がけて、短剣を走らせる――つもりだったが、やめた。

 ブォン

 転倒していたゴブリンが、僕めがけて、持っていた棍棒を投げつけたのだ。

(見えてるよ!) 

 止まって回避した僕は、つい笑った。
 そんな僕めがけ、正面のゴブリンが雄叫びを上げながら、剣を振り下ろす。

『ギヒャア!』

 ブンッ

 僕は身をかわしながら、その手首の進路上に『マールの牙』を置いた。

 ガシュッ

 重い衝撃があった。
 そして、剣を掴んでままのゴブリンの両手が、空中へと飛んでいた。

『ヒギャ……? ヒギャ、ヒギャアアア!?』

 唖然とし、そして、激痛に叫ぶゴブリン。

 トスッ

 僕は、その首に『マールの牙』を刺した。

 止まるゴブリン。

 僕は、刃を抜く。

 すぐに紫の血が噴き出して、ゴブリンは泣きそうな顔で、そのまま仰向けに倒れて、動かなくなった。

『ヒ……ギ……?』

 転倒していたゴブリンは、青ざめていた。
 覆いかぶさっていた仲間の死体を、慌ててどかし、情けない悲鳴を上げながら逃げようとする。

 ヒュッ

 追いかけた僕は、その首に『マールの牙』で触れる。
 逃げるゴブリンは、その逃げた距離の分だけ、首を斬られてしまった。

 ブシュゥウウ

 紫色の血が噴き出す。
 その状態のまま、ゴブリンは、しばらく走った。走って、走りながら斜めになって、そのまま地面にゴロゴロと転がった。

(――ラスト1体)

 僕は、そちらを見る。
 岩に座っていたゴブリンは、すでにこちらに背を向け、逃げる体勢になっていた。

 僕は、『マールの牙』を逆手に持ち替えて、大きく振り被る。

「ん!」

 ビュッ ドスッ

 投げた片刃の短剣は、ゴブリンの背中に突き刺さる。

『ギ、ギャア!?』

 堪らず転倒するゴブリン。
 僕は、素早く近づいて、ゴブリンの背中に刺さったままの柄を掴み、一気に引き抜く。

 ブシュウ

 血が出る。
 重傷だ。
 でも、まだ致命傷ではないらしい。

 ヒュン

 キルトさんの動きを思い出して、僕は、独楽のように回転しながら、その頸動脈を斬った。
 僕を追いかけて、旅服の裾が空中を舞い、ゆっくりと止まって落ちる。

 森の中に、静けさが戻る。

「……ふぅ」

 ゴブリンは5匹とも、死んだ。 

 ――僕が、殺した。

 ふと見れば、紫の血に濡れた刃が、小刻みに揺れている。

(……今更、手が震えるんだ?)

 情けない自分に、苦笑する。

 ガサッ

「!?」

 草の揺れる音に、ビクッとしてしまった。

 慌てて顔を上げると、そこには、白い槍を手にしたイルティミナさんが立っていた。どうやら、逃げようとしたゴブリンを、頼んだ通りに、彼女も狙っていたみたいだ。

「マール……」

 彼女は、呆然とした顔で、僕を見つめている。
 僕は、笑った。

 ……なんでだろう?
 彼女の顔を見たら、なんだか、必死に踏ん張っていた緊張感が、プツッと切れてしまったみたいだ。

(なんか……泣いて、しまいたい……)

 僕の表情に、彼女は息を飲む。
 そして、すぐに近づいて、僕を抱きしめた。

 抱きしめながら、僕の強張った指を1本1本、ゆっくりと外して、血に塗れた『マールの牙』を、僕の手から引き剥がす。

(……あぁ)

 僕は、力を抜いて、彼女の胸に頭を預けた。
 その髪を、白い手が撫でる。

「――よくがんばりました、マール。見事です」

 凛として落ち着いた、でも、優しい声だ。
 僕は、頷く。

「うん」

 がんばったよ。
 これからも、みんなと一緒にいたいから、必死にがんばったんだ。

 まだクエストは終わりじゃないけれど、

(でも、少しぐらい、自分を褒めてもいいよね?)

 そう思った。

 気づいたら、キルトさんとソルティスも、草をかき分け、こちらにやって来ようとしていた。
 2人とも歩きながら、ゴブリンの死体を、驚いたように見ている。

「まさか、あのマールが……1人で?」
「嘘みたい……」

 キルトさんは黄金の瞳を見開いて、有り得ないものを見たように呟き、ソルティスは信じたくないという風に、紫色の髪を揺らして首を振っている。

 僕は苦笑し、頭上を仰ぐ。
 木々の向こうに、とても綺麗な青空が、どこまでも広がっている。

「ふぅぅ」

 その青さが沁みたように、僕は目を閉じる。
 そして、胸に溜まった何かを抜くように、長い息をゆっくりと吐きだした――。