287-284・Time at base



「あの女の人は、『悪魔の欠片』じゃないと思います」

 その夜、僕は『岩石地帯・拠点』の本部へと呼び出されて、意見を求められた。

 僕の前には、代表の4人が座っている。

 彼らの前で、僕は1人で立たされていた。

(まるで教師に呼び出しを食らった生徒みたいだ……)

 そんなことを思う僕の後ろには、少し離れて、イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんの3人が並んで立っている。

 本部テント内に、他の人の姿はない。

 神や悪魔に関する話なので、他の開拓団員には内密なのだ。

 ロベルト将軍の側近だという人たちが、誰も入ってこないよう、テントの出入り口の外に2人、見張りとして立っているぐらいだ。

 僕の意見に、ロベルト将軍が質問する。

「その根拠は?」

 僕は思ったままを答えた。

「今までに見た『悪魔の欠片』は、みんな、肌と髪の色が黒かったです。でも、あの女の人は違いました」
「ふむ」

 ロベルト将軍は、隣のキルトさんを見る。

 キルトさんは頷いた。

「確かにの。外見性の類似点はないとわらわも思う」
「そうか」

 ロベルト将軍は、あごに手を当てて考え込む。

 僕は続けた。

「もう1つ理由があります」
「何かね?」
「あの女の人に、『探査石円盤』が反応しました」

 僕は、ポーチから円盤を取り出す。

 今は無色透明になっている中央の魔法石は、けれど、あの時、溢れんばかりの光を放っていた。

 ギュッ

 それを握り締め、

「これは『神気』に反応します。でも、『悪魔の欠片』が『神気』を宿しているとは思えません」

 僕の青い瞳は、ロベルト将軍を見つめる。

 将軍さんは黙っている。

 代わりに、隣のレイドルさんが頷いた。

「マール君の推測は、理路整然としているよ。筋が通っていると、俺は思うね」
「私も同感だ」

 アーゼさんも首肯する。

「何より、神狗様の直感は、我ら人類と比べても優れている。それが否定を示すならば、そうなのだろう」

 深い信頼を込めた声で告げた。

(アーゼさん……)

 驚く僕の視線に気づいて、彼女は兜から見える口元をニコッと微笑ませた。

 ロベルト将軍は顔を上げ、

「ならば、あの女の正体はなんだ?」

 他の代表3人に視線を向けながら、そう問いかけた。

(……それは)

「…………」
「…………」
「…………」

 やはり、誰も答えられない。

 場には、沈黙が広がっていく。

 と、

「――正体なんて、関係ない」

 小さな声が響いた。

 その声の主は、驚いたことに、僕の後ろの方に立っているポーちゃんだった。

 イルティミナさん、ソルティスも驚いている。

 皆の視線が、金髪の幼女に向く。

 幼女は、また口を開いた。

「あの存在からは、膨大な『神気』を確認した。それは、ポーたちの持つ『神気』の数十倍に匹敵する。そのような膨大な『神気』を有する理由は1つしかない」

 水色の瞳は、静かに僕らを見返した。

「――『神霊石』」

 その一言に、僕らは息を呑む。

「あの存在は、間違いなく『神霊石』を所持している」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「ゆえに正体の如何に関わらず、身柄の確保が重要とポーは告げる」

 場に静寂が落ちた。 

(ポーちゃん……)

 確かにそれが本当なら、あの女の人にはどうしても、もう1度会う必要があるだろう。

(だって僕らは、『神霊石』を手に入れるために、この暗黒大陸まで来たんだから)

 キルトさんが僕を見た。

「マール」
「ん?」
「そなたも、あの女が『神霊石』を所持していると思うか?」

 僕は考える。

「うん」

 そして、正直に頷いた。

「『探査石円盤』があそこまで光ったのは、初めてなんだ。それを思うと、やっぱり、それ以外には考えられないよ」
「そうか」

 キルトさんは頷いた。

 その黄金の瞳が、シュムリア王国の将軍へと向けられる。

 レイドルさん、アーゼさんも彼を見た。

 全員の視線を向けられ、ロベルト将軍は目を閉じて、しばし沈黙する。

 やがて、

「わかった」

 その瞳を開いた。

「明日からは、その女の捜索も開始しよう。全団員にも通達してくれ」
「うむ」
「わかった」
「承知した」

 他の代表3人も頷いた。

「ただし正体がわからぬ以上、警戒も忘れてはならない。全員、それは肝に銘じてくれ」

 油断のない声だ。

 僕らは、もう1度、頷いた。

 その夜の話し合いはこれで終わり、僕らは翌日の探索に備えて、本部をあとにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 探索の日々は、3日ほど続いた。

 雨の日に出会ったあの女の人は、残念ながら、まだ見つかっていない。

 でも、『廃墟の都市』の探索は続き、多くの資料や遺物が発見された。

 連日の夜、発見された情報を基に、『魔学者』たちは話し合いを重ね、トルーガ文明の謎が少しずつ解明されていった。

 その集まりには、博識少女ソルティスも参加していた。

「トルーガ文明の中心となった帝国は、1000年前には存在してたみたいね」

 簡易テントで夕食を食べている時、ソルティスはそう教えてくれた。

 モグモグ

 僕はパンを食べながら、目を丸くする。

「1000年も前?」
「そう」

 目の下に隈を作った少女は、笑いながら頷いた。

 ちなみに彼女は、料理そっちのけで、今もトルーガ文明の資料に目を通している。

 この食いしん坊少女が、料理にも興味を示さないほど、この歴史的な大発見に心奪われている証拠だった。

(まぁ、気持ちはわかる……かな)

 前世でいったら、それこそ宇宙人の遺跡を発見したようなものだ。

 研究者ならば、誰もが寝食を忘れて、その調査に没頭するだろう。

 そんな少女が言う。

「トルーガ帝国は、古代タナトス魔法王朝と同時期にも存在していて、交流もあったみたい。でも、友好国というより、対抗意識を燃やしてる感じね」
「へぇ、そうなんだ?」

 彼女の説明によれば、トルーガ帝国は『強さこそ正義』という国風だったんだって。

 それはタナトス文明への対抗心から来る部分もあったらしく、

「魔法技術の発展のために、生贄みたいな方法も辞さない国だったみたいよ」

 とのことだ。

(……い、生贄かぁ)

 結構、過激な国だね。

 ちょっぴり引いてしまう僕でした。

 ペラ ペラ

 資料の紙をめくりながら、

「でもね、その魔法技術を追求した結果、この都市は廃墟になってしまったみたいなの」

 と、ソルティスは言った。

 え?

「どういうこと?」

 僕は問う。

 キルトさん、イルティミナさんも少女を見る。

 ポーちゃんだけは、黙々と食事を続けていた。

 ソルティスは、こちらを見返して、

「この都市が、生体兵器として『人造の魔物』を研究していたって話は、前に言ったでしょ?」
「うん」
「その研究の1つにね、『大王種』を使ったものがあったの」

 大王種?

「見つかった資料によれば、巨大な蛇の『大王種』の体組織を採取して、そこから人型の究極生体兵器を創りだしたらしいわ」

 僕らを見る少女の瞳は、妖しい光を宿していた。

「究極……生体兵器?」
「そう!」

 繰り返す僕に、彼女は強く頷く。

「それまでのどの生体兵器よりも強力で、元となった『大王種』でさえ、単体で殺せたって」
「…………」
「名称は、『蛇神人(へびがみびと)』。神の如き蛇の力を宿した人」

 蛇……。

 その名前で思い出すのは、不思議な夢で見た巨大な蛇だ。

 ゴクン

 僕は、唾を飲み込む。

 豊かな銀髪を揺らして、キルトさんが首をかしげた。

「それが、どうして、この都市を廃墟にした?」

 少女は答えた。

「制御装置に不具合があったみたい」
「ふむ?」
「確かな原因は、不明なの。単純に装置が壊れたのか、あるいは『蛇神人』の能力が制御装置を不能にするほど上回ったのか……どちらにしても、『蛇神人』は暴走した」
「…………」

 暴走……。

「究極の生体兵器の反乱。それで、この都市は滅んだみたい」

 ソルティスはそう締め括った。

(…………)

 なんか、食事の味がしなくなっちゃったな。

 イルティミナさんが吐息をこぼす。

「……慢心した魔法文明の滅び、ですか。まるでタナトスと同じ結末ですね」

 そう呟いた。

(確かに……)

 この世の文明は皆、慢心していき、滅ぶようにできているのだろうか? 

 …………。

 みんな、なんとなく沈黙する。

 やがて、キルトさんが口を開いた。

「都市が滅んだあと、その『蛇神人』はどうなったのじゃ?」
「わからないわ」

 ソルティスは首を振る。

「都市が滅んじゃったんだもの。それ以降の資料も残ってないわ」

 あぁ、それもそうか。

 …………。

 でも、ちょっと引っかかる。

「あの女の人、なのかな」

 心の中を、ポツリと呟いた。

 みんなの視線が、僕に向く。

「あの雨の日に出会った、3色の髪をした女の人、あれが『蛇神人』なんじゃないかな」

 僕は言った。

「ふむ、どうしてそう思う?」

 キルトさんが聞いてくる。

 明確な理由はない。

 でも、夢で見た蛇は、『神霊石』を食べた。

 そして、あの女の人が『神霊石』を持っていることを、『探査石円盤』は示していた。

 その2つの事実から、僕にはそう思えたんだ。

「なるほどの」

 僕の説明に、キルトさんは頷いた。

 ソルティスも「あり得るわ!」と瞳をキラキラさせている。

 でも、イルティミナさんはその美貌をしかめた。

「もしそうであれば、その女とは友好的に接することは不可能かもしれませんね」

 と告げる。

(え……どうして?)

 キョトンとなる僕。

 彼女は真紅の瞳を伏せて、

「金印の魔狩人ガイルズ・シュレイド」
「…………」
「『航海日誌』によれば、その30年前の『金印の魔狩人』は、巨大な蛇に食われたそうです。もしそれが事実だとするならば、その蛇は『蛇神人』と仮定され、彼女は私たちにも敵対する存在なのではありませんか?」

 そう淡々と言った。

 ……否定する材料は、なかった。

 簡易テント内に、沈黙が落ちる。 

 やがて、キルトさんは吐息をこぼした。

「ふむ。否定はできんな」

 キルトさん……。

「じゃが、そうだとしても接触を避けるわけにはいかぬ。その女の手に、『神霊石』があるのならばの」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 うん、そうだね。

 ちょっと怖いけれど、逃げるわけにはいかない。

 それに、本当に敵対するかはわからないんだ。

(もしかしたら、意外と話の通じる人かもしれないし……)

 そんな希望もある。

「今の話も、ロベルト将軍には伝えておく。しかし、わらわたちのやることは変わらぬ」

 そう言って、キルトさんは僕らを見回した。

 僕らは頷く。

 キルトさんは、満足そうに笑った。

「よし、そうと決まれば、皆、早う食べよ。明日の朝も早いぞ」
「うん」
「はい」
「そうね」
「…………(コクッ)」

 彼女の笑顔に励まされ、僕らも笑顔になった。

 そうして今度は、僕らと一緒にソルティスも料理を食べていく。

 うん、美味しい。

 味も戻った。

 そうして僕らは夕食を終え、明日に備えて、早めの就寝を迎えるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 翌朝、まだ太陽も登り切らない時間に、僕はテントの外に出ていた。

 ちょっとお手洗いに行ったんだ。

(ふぅ、すっきり)

 仮設トイレを出た僕は、みんなのいるテントに戻ろうとする。

 こんな時間なので、拠点内を出歩いている人の姿は、他にない。

 拠点の出入り口に、見張りの王国騎士さんたちが立っているのが見えるだけだ。

 ヒュウ……

 冷たい風が吹く。

 西の空はまだ暗く、けれど、東の空は少しだけ白んでいる。

 空には雲もなくて、今日は晴れそうだ。

 そんなことを思いながら、テントを目指して歩いている時だった。

「マール殿っすか?」

 え?

 突然の後ろからの声に振り返れば、そこには、灰色の髪をした女竜騎士――アミューケル・ロートさんが立っていた。

 彼女のそばには、同じ竜騎士の格好をした男女2人がいる。 

「おはようございます」

 僕はそう挨拶する。

「おはようっす」

 アミューケルさんも、返事をしてくれる。

 それを受けながら、僕の視線は、彼女のそばにいる2人の男女へと向けられていた。

 男の人は、褐色の肌と黒髪で、とても大きな体格をしていた。

 顔も大きくて、目は細く小さい。 

(なんだか起きているのか、眠っているのかわからない感じだよ)

 そんな印象。

 一方の女の人は、長い亜麻色のウェーブヘアで、鎧の上からでもプロポーションが抜群なのがわかった。

 顔も整っていて、艶めかしい唇には紫のルージュが塗られていた。

(香水なのかな?)

 かなり強い、甘ったるい匂いがする。

 僕の視線に気づいて、

「同僚のボブとラーナっすよ。マール殿と会うのは初めてっすね」

 とアミューケルさんは紹介してくれた。

「ボブ、だ」
「ラーナ・シュトレインよぉ。よろしくねぇ?」

 そう2人も挨拶してくれる。

 ボブさんは朴訥な声。

 ラーナさんは、どこか扇情的な声だった。

 僕は会釈する。

「僕は、マールです。おはようございます、ボブさん、ラーナさん」

 ボブさんは頷き、ラーナさんは切れ長の瞳を細めた。

 そんな2人を見てから、

「んで、こんな時間にどうしたっすか、マール殿?」

 アミューケルさんが眉をひそめて、話しかけてくる。

(えっと……)

 僕はうつむきがちで、

「ト、トイレです……」

 恥ずかしかったけど、正直に答えた。

 3人は『あぁ』って顔をする。

 羞恥心に焼かれた僕は、話題を変えたくなった。

「あ、えっと、皆さんは、こんな朝早くにどうしたんですか?」

 と質問する。

 アミューケルさんは答えた。

「哨戒任務っす」

 哨戒任務……?

 キョトンとなる僕に、

「自分らは24時間、交代で、マール殿たちが探索している『廃墟の都市』を上空から見張ってるんすよ」

 と教えてくれた。

(え? そうなんだ?)

 全然、知らなかった。

「手配中のあの女を探したり、探索部隊に何か起きてないか確認したり、伝令だったり、他にも別の土地から魔物が接近していないかとか、空飛ぶ魔物の牽制とか、色々とやってるんすよ」

 アミューケルさんは、腰に手を当てながら言う。

 そうだったんだ……。

「知らないところで、色々と助けてくれてたんですね」
「そうっすよ」

 頷いて、

「ま、それが自分らの役目っすから」

 アミューケルさんは、軽く肩を竦めた。

 ペコッ

 僕は、頭を下げた。

 それから笑って、

「全然、知らなかった。ありがとうございます、アミューケルさん」
「…………」

 アミューケルさんは無言になった。

 そのまま、そっぽを向いて、灰色の髪をガシガシと手でかいた。

「に、任務っすから。礼なんて要らないっすよ」

 なんだか頬が赤い。

 と、

「ふふ~ん♪」

 プニッ

 その頬っぺたを、ラーナさんの白い指が突っついた。

「な、何するっすか!?」

 ペシッ

 その手を叩き落とすアミューケルさん。

 ラーナさんは、甘く笑う。

 それから僕の方を見て、

「なるほどねぇ。これがアミューケルお気に入りの神狗様なんだぁ?」

 と顔を寄せてきた。

 ……香水の匂いが強いなぁ。

 ちょっと戸惑っている僕へと、ラーナさんは身を寄せてくる。

「ねぇ、知ってる、神狗様ぁ?」
「な、何をですか?」
「初めて君のことを知らされた時、アミューケルったらね、『その〈神狗〉とかいう奴に、本当に守る価値あるんすか?』なんて言ってたのよぉ」

 耳元に吐息をかけるように囁いてくる。

(あ、そうなんだ?)

 確かに初対面の時のアミューケルさんは、そんな感じだった気がする。

 でも、仕方ないよね。

 だって、僕自身、自分にそんな価値があるのかわからないし……。

「ちょ……っ!?」

 アミューケルさんは、少し慌てた顔をする。

 それを楽しそうに眺めて、ラーナさんは僕へと囁いた。

「でもねぇ、しばらくしたら『マール殿はいい奴っすね。でも、まだ頼りないっすから、自分らが守ってやらないと!』なんて息巻いちゃってぇ♪」
「…………」
「いったい、神狗様はぁ、どうやってアミューケルを心変わりさせたのかしらぁ♪」

 ……と、言われましても。

(何かしたっけ、僕?)

 困惑していると、真っ赤になったアミューケルさんが飛びかかってきた。

「ラ、ラーナ! それ以上は黙るっすよ!」

 ヒュバッ

 凄まじい速度で伸ばされた手を、けれど、ラーナさんは回転してかわす。

 おぉ、凄い回避だ。

「くっ……このぉ!」

 アミューケルさんは怒ったように追撃する。

 ヒュバ ボッ シュババッ 

 ラーナさんは「オホホホ♪」なんて笑いながら、華麗にかわして後ろに下がっていく。

(……え、え~と?)

 戸惑っている僕の肩に、

 ポンッ

 ボブさんの褐色の大きな手が置かれた。

「お前、アミューケルのお気に入り」
「…………」
「とても珍しい。でも、よかった」

 そう言いながら、彼はラーナさんを追いかけるまだ若い竜騎士を見つめる。

 なんだか、とっても優しい眼だ。

 後輩となる竜騎士のことを見守っている先輩の竜騎士って感じだった。

(…………)

 僕は、素直に言った。

「僕も、アミューケルさんのこと、いい人だと思ってますよ」
「そう、か」

 ボブさんは、満足そうに頷いた。

 やがて、ラーナさんを捕まえ切れなかったのか、アミューケルさんが1人で戻ってくる。

 ラーナさんは離れた場所で、小さく手を振っていた。

「くそったれ、っす」

 ゼェ ゼェ 

 アミューケルさん、肩で息をして、ちょっと髪が乱れてました。

「大丈夫ですか、アミューケルさん?」

 心配して声をかける。

 彼女は僕を見て、なぜか頬を赤くして、「……うっす」と視線を逸らした。

 それから、大きく深呼吸。

 そして気を取り直したように、僕を見直して、

「つーわけで、自分はこれから哨戒任務に行ってくるっす。マール殿は、まだ出発まで休んでるっすよ」
「はい」

 僕は、素直に頷いた。

 アミューケルさんは、紅い瞳を細めて、僕の髪に手を伸ばした。

 クシャクシャ

(わっ?)

「いい子っすね」

 彼女はそう笑った。

 それから、

「じゃあ、行ってくるっす」

 軽く敬礼して、ボブさん、ラーナさんを伴い、拠点の奥へと去っていった。

 乱れてしまった髪を、僕は手で触る。

「…………」

 そうして突っ立っていると、

 バッ バササァッ

 拠点の外で砂埃が舞い上がり、そこから早朝の空へと、翼を広げた『竜』が飛び立っていった。

(……アミューケルさんかな?)

 僕は、青い瞳を細める。

 太陽の白い光の中へと、雄々しい竜の姿は消えていく。

「…………」

 それを見届けてから、僕は、自分のテントへと戻っていった。