317-Second and third time




 
 それから俺は、二回死んだ。
 祖龍様に殺してもらったのを合わせて三回。


 二回目の転生で俺は、獣人の青年になった。

 それは狼系獣人の肉体で、歳はちょうど成人したくらいだった。時代は、もとの時間から1000年くらい前だと思う。

 呪いが解ければ、もとの時間に戻れると聞いていたので、少しだけ獣人の身体を堪能した。

 それでわかったことがある。

 獣人って、ズルい。

 獣人族のステータスは、人族の感覚からすると、生まれながらにして常に魔衣を纏っているようなものなんだ。

 ちょっと本気を出せば、とてつもない速度で移動でき、腕力も人族とは桁違い。

 これでは、魔法に頼ろうって思う獣人が少ないのもわかる気がする。


 ベスティエ(獣人の王国)では、力試し大会が至るところで開催されていた。

 俺は色んな大会に出て、その全てで優勝した。少しだけ魔衣が使えたのと、そもそも高速での戦闘には慣れていたから。

 あまりに快勝できるので、調子にのった。
 そのせいで当時の獣人王に目をつけられた。

『お前、強いらしいな? いっちょ俺と、殺り合おうぜ』

 そう言ってきた彼に、俺は見覚えがあった。
 彼は後に神格へと至る御方。

 武神様だった。

 獣人族の間では、史上最強と言われる獣人。

 当然そんな獣人王に敵うはずもなく、俺は後の武神様と三日間寝ずに戦闘して、力尽きた。

 死ぬ時は疲労が溜まりすぎて死んだので、そんなに怖くなかった。ずっと戦ってたから、興奮しっぱなしで自分の疲労に気づけなかった。

 でも、とても楽しかった。

 もとの時間にもどったら、武神様のとこにリトライにいかなくっちゃな。

 次は必ず、俺が勝つ!!


 ──***──

 三回目の転生で、俺はゴブリンになった。

 ヒトに害をなす魔物の代表。

 あんまり情報を入手できなくて、いつの時代なのかはわからなかった。

 俺は三十体ほどのゴブリンの群れに所属していて、仲間と一緒に森の魔物を狩って生活していた。

 ゴブリンになってるので、魔物の肉を生で食うのとかも全然抵抗なく平気だった。

 でも長い間ここにいると、俺は今後ゴブリンを倒せなくなってしまいそうだった。食い物を分けてくれる仲間たちが、良いヤツらに思えてしまったから。

 それに俺がいた群れは、森の奥深くに縄張りを持っていて、ヒトに危害を加えることはなかった。

 仲間がグレイベアっていう熊の魔物に襲われてたから、それを助けたこともある。そのせいで俺は、ゴブリンたちのリーダー的存在になってしまった。

 ゴブリンとはいえ仲間に頼られるのは、そんなに悪い気もしなかった。

 そんなわけで、ここに長期間いたら本当に、ゴブリンを倒せなくなりそうだ。

 冒険者にでも見つけてもらって、さっさと殺してもらおうって考えてた。

 そんなある日──


 仲間が、人族の少女を攫ってきた。

「いやっ、やめて──」

 俺の前に連れてこられた少女は、泣いていた。
 抵抗したのだろう。服はボロボロで、手足から血が出ていた。

 少女はすごく、魅力的だった。
 本能が、彼女を犯せといっていた。

 俺は少女を、襲おうとしていたんだ。

 獲物を手に入れたら、群れのボスが先に食う。
 それがゴブリンの習性。

 ボスが信頼されてないと、配下のゴブリンが勝手に獲物に手を出すことがあるが、うちの群れはそうじゃなかった。

 ちゃんと手付かずの少女を、俺のもとにつれてきた。

 少女を攫ってきた配下のゴブリンに、グレイベアの肉片を与えると、俺は少女に覆いかぶさった。

 これは、オレのモノだ。

 普通のゴブリンは、大型のグレイベアを倒せない。俺はいつの間にか、ゴブリンファイターに進化していた。

 ゴブリンファイターは、Dランクの冒険者でなければ倒せない魔物だ。そんな魔物の腕力に、少女が抵抗できるはずがない。

 少女の両手を片手で押さえつけ、残った手と舌を彼女の身体に這わせる。

 少女を気持ちよくさせようなんて考えない。
 自分が良ければ、それでいい。

 服を剥ぎ、いざ犯そうとした時、少女が消えそうな声で助けを求めた。


「勇者様、助けて……」

 ──と。

 この声を聞いて、俺は正気に戻れた。

 奪い取った少女の服を投げ返し、仲間には彼女に手を出すなと伝えた。

 少女は後ほど、巣から逃がしてやるつもりだった。

 だが仲間たちは、少女(メス)を見て興奮していた。

 魔物としての本能が剥き出しになり、俺の支配力が及ばなくなっていたんだ。

 お前が犯さないなら、寄越せ。

 そう脅される。

 俺がかつて守ってやったゴブリンたちが、俺に武器を向けてくる。


 そうか……。
 コイツらもやっぱり、魔物なんだな。

 ヒトの、敵なんだな。


 俺は少女を守りながら、群れのゴブリンたちを全滅させた。

 ゴブリンファイターとゴブリンの間には、圧倒的な力の差がある。苦戦はしなかった。

 苦楽を共にした仲間だったヤツらを、俺は一匹残らずバラバラに引き裂いた。

 ゴブリンたちの連携を鈍らせるために威嚇の咆哮をした時、少女は気を失ったから、俺が暴れる姿は見ていない。

 魔物とはいえ、生き物が目の前で引きちぎられる様子を見ずに済んだのは、不幸中の幸いだろう。


 俺は気絶している少女を抱えて、しばらく住んでいた巣を後にした。

 ここは、魔物が生息する森の奥深く。

 せめてヒトの住む町のそばまでつれていってあげなければ、他の魔物に襲われるかもしれない。

 俺が、怖がらせてしまった。
 俺の仲間が、彼女を傷つけてしまった。

 だから俺は、なんとしてもこの子を無事に、帰さなければならない。

 そう決意して、森を進んでいく。

 だけどその役割は、思っていたより早く終わった。



「少女を攫ったゴブリンって、ファイターだったのか」

 背後から声が聞こえた。
 それと同時に、俺の首は地面に落ちていた。

 倒れる俺の身体から、少女を奪って優しく抱き上げた男の顔が目に入る。


 ……そうか。

 少女が助けを求めた勇者は、お(・)前(・)か。


 神様からもらった刀で、俺の首を刎ねた黒髪黒目の勇者がそこにいた。