23 . It was a banquet after a long time



 今日は、朝から龍形態(ドラゴンフォーム)のオーラの背に乗り、騎乗飛行の訓練を行っていた。
 今までは、夜中に目立たないようにやっていたのだが、周囲の都市からも、すでに龍騎乗者(ドラゴンライダー)との目で見られているのに、ことさら隠す必要もないだろう、との判断からであった。
 
 訓練とはいいながらも、どちらかと言うと、いつも人形態(ヒューマンフォーム)で過ごしているオーラの気分転換も兼ねて、と思っていたのだが、やはり青空の下で思い切り羽ばたけるのは気持ちいいようで、オーラは猛スピードで風を切、ゴルン山の周囲を気持ちよさそうに旋回し続けていた。

 さすがに、騎乗状態から魔法を放つ訓練をするわけにはいかないので、僕は騎乗時のバランス感覚と、この状態で素早く詠唱を行う練習を繰り返す。

 時間にして1時間ほど訓練を行ったところで、今日の所は終了となった。

 オーラが龍であることは、一部の人にしか知らせていないため、オーラは龍形態(ドラゴンフォーム)のまま、龍の鱗の堆積層の採掘がおこなわれている洞窟の奥へ歩いて入っていき、龍族が龍形態のままでも休憩できるようにしつらえられている区画で一休みしてから人形態(ヒューマンフォーム)へと戻った。

 ちなみに、龍形態(ドラゴンフォーム)から人形態(ヒューマンフォーム)に戻ったオーラは、裸の状態になってしまうのため、この際に、僕は先にこの場を離れている。

 この区画からは、地下通路が役場の僕の執務室まで伸びているので、それを通って役場へ戻ると、
「領主様……姉さんとばかりずるいです。次は私にも乗ってくださいね」
 オーラの妹のエーラが、ちょっとご立腹な様子で待ち構えていた。
 オーラの妹なので、当然彼女も龍人(ドラゴンピープル)であり、龍形態(ドラゴンフォーム)に変形することが可能である。
 まだ幼さが残っているエーラが『のって』などと言っていると、知らない人に見られたらあらぬ誤解を受けかねないな、と、ちょっと思いながらも、次回はお願いするよ、と約束したところで、ようやくエーラは機嫌を直してくれた。

 一休みしてから、僕はジャンバレアの地下迷宮(ダンジョン)へと向かった。

 視察もかねているのだが、最近は僕自身の攻撃魔法の訓練を兼ねて、この地下迷宮(ダンジョン)に挑戦していたりする。

 もともと僕は、医療系魔法を得手にしているのだが、領主になった以上、それなりの戦闘もこなせるようになっておかないと、との思いからである。
 と、まぁ、そんな偉そうなことを考えてはいるものの、今の僕は、初級迷宮(ダンジョン)がいまだにクリア出来ないレベルなわけで・・・というか、実のところ、まだ4層までしかたどりついたことがない。

 ・・・今日はせめて5層は突破したいな。

 受付を済ませ、初級地下迷宮(ダンジョン)の入り口をくぐる。
 少し進むと、エレベーターという、箱型の部屋が自動で上下に移動する仕掛けの前にたどりつき、その部屋に入る。
 自動で戸が閉まると、部屋は下へと下がっていき、しばらくすると、停止し、その戸が開く。
 目の前に、クレリックの幻影が現れ、
『ただいまより、地下迷宮(ダンジョン)への挑戦が開始されます・・・あなたのご武運をお祈りしております。』
 幻影は、口上を述べ一礼すると、かき消すように消えていった。
 その後方には、すでに地下迷宮(ダンジョン)の通路が広がっている。
「さて、行くか。」
 僕は気合いを入れると地下迷宮(ダンジョン)へと足を踏み入れていった。

 この日は、序盤は調子がよく、3層までは順調に進んでいけたのだが、4層で骨人間騎士(スケルトンナイト)の3人パーティに出くわし、苦戦を強いられた。
 騎士(ナイト)クラスのモンスターは、魔法をある程度吸収出来る盾を装備しているため、僕のように、魔法以外の攻撃方法をあまり得手にしていない人間では非常に相性が悪い。
 それでもなんとか4層まではたどりついたのだが、今回も4層のボスで挑戦終了となってしまった。
 今回のボスが、骨人間騎士巨人(スケルトンナイトジャイアント)だったのも、運がなかったといえるのだが、力負けだったのも事実なわけなので、どうにも不甲斐ない思いでいっぱいになってしまう。
 
 出来れば、すぐに再度挑戦したくもあるのだが、仕事が待っているため、すぐに役場へと戻らざるをえなかった。

 ちなみに、挑戦代金は正規の金額を支払っていることを付け加えておく。
 領主だからと言って、特別扱いはしてもらわないことにしている。

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 役場に戻ると、領主室ではフォルデンテが待っていた。
 なんでも、辺境都市バトコンベに動きがあったのだという。
 
「バトコンベの軍隊がねぇ、辺境小都市ゲヘモースとの都市境付近に集結してるのよねぇ。
 表向きはぁ、軍事演習ってことになってて、そこで実際に演習を繰り返してるんだけどぉ、ゲヘモースの男爵領主さんは、恐怖にかられちゃってねぇ、同じように都市境付近に軍を進めちゃってるみたいなのよねぇ」
 そこまで言うと、フォルデンテは、いつものようにクスクス笑いながら、僕を見据える。

 バトコンベの手口は、毎回だいたい似ていて、

 狙いを定めた相手都市との国境付近に布陣し、そこで演習を繰り返す。
 ↓
 ある日突然、その軍隊が相手都市に攻め込み、略奪行為を行う。
 ↓
 軍隊が帰還後
 「わが軍の演習にお付き合いくださり感謝」との書状を送り付ける

 その後は、蹂躙されたせいで軍隊が弱体化した相手都市に対して、バトコンベの軍隊で守ってやろう、と、一方的に駐屯しつつ、駐屯にかかる費用を請求、そのままなし崩しで、バトコンベ領に取り込んでいくケースもあるという。

「いくらぁ、あの男爵領主でも、すぐに戦いを挑むほど馬鹿じゃないだろうしぃ、とにかく、しっかり監視しておくわねぇ」
 フォルデンテの言葉に、僕は、よろしく頼む、と頷いた。

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 久々に、クロが荷馬車隊を引き連れて村へと戻って来た。

 今回は、地下迷宮(ダンジョン)の宣伝と、龍の鱗の武具の売り込みを兼ねてかなり広範囲を回ってきてくれたらしく、
「さすがのワシも、ちと疲れたわい」
 そう言いながらも、いつものようにガハハと笑うクロ。

 とりあえず、温泉に入りたいというクロら一行と一緒に駅馬車にのって温泉村へ移動。
 車内で、旅での話をいろいろ聞かせてもらった。

 地下迷宮(ダンジョン)に関しては、龍の鱗の武具を見せて
「こんな武具がドロップアイテムで手に入るんじゃぞ?」
 と煽ったところ、各地で相当な話題になっていたとのことである。
 まぁ、今の街の状況を見れば、それがいかに効果的だったかわかるわけで
「とりあえず、かなり煽ってきたからのぉ、まだまだ挑戦しにくる冒険者どもは多いと思うぞ。」
 そう言ってガハハと笑うクロ。
 この笑い声を聞くと、やはりどこか落ち着つけてしまう。

 温泉村が近づくと、以前は森だった周囲が急に開け、広大な農耕地が広がった。
 水牛人若夫婦が中心になって、ここらを開拓し続けているのだが、その広がるペースはかなりのものだ。
 僕が自前の畑で栽培していた苗を利用して、それをどんどん増やしている最中との報告を受けてはいたのだが、先日温泉に向かった際に見たよりも明らかに広大になっている。

 温泉村の温泉宿では、エルフ若女将が忙しい中、わざわざ自ら出迎えてくれた。
 温泉村も盛況とは聞いていたが、増設した宿泊施設も含めてほぼすべての部屋が埋まっており、当分先まで予約で満室なのだそうだ。
 この温泉村から地下迷宮(ダンジョン)まで駅馬車の定期便が出ているので、地下迷宮(ダンジョン)に挑んだあと、この温泉宿で疲れを癒すという人の流れがうまくできはじめているようだ。
 とはいえ、ここまで盛況になると、エルフ若夫婦と蟻人(アントピープル)4人だけではやはり人手不足とのことなので、僕としても早急に対応を考えなければ、と思う。

 その後は、クロ達と一緒に温泉を満喫。
 僕自身も、こうしてのんびり温泉に浸かるのは久々だったので、癒される。
「お主も、いろいろ大変じゃろうが、まぁ、こうした時間もたまにはええもんじゃろうが」
 そう言ってガハハと笑うクロに、まったくだ、と、笑顔を返す。

 夕飯前になると、魔法工房のエルデナとヨーメも温泉宿にやってきた。
「……遅れてごめんなさいね」
 と、本来なら一緒の駅馬車でくるはずだったエルデナが謝るのだが、仕事の都合なので、むしろ無理をさせたこちらの方が申し訳なく思ってしまう。
 とりあえず、2人が温泉に入っている間に、貸し切りにしてもらった宴会場の1つでクロらと夕食を始める。
 役場の、ウーニャとドワーフ夫人達の料理や、地下迷宮(ダンジョン)食堂の猫妖精(ケットシー)の料理もおいしいのだが、あちこちで雇われ料理人をやっていたエルフ若旦那の料理の腕は格別だった。
「いやはや、ここの料理はマジでうまいぞ。」
「「「いやまったくじゃ。」」」
 各地でいろいろな料理を食べてきているクロ一行も、とてもうれしそうに食事を食べては酒を口に運んでいる。
「ご主人様! 来たクマ!」
 と、向こうに残してきたはずのコロックや、オーラ、エーラらが、いきなり部屋の中に乱入してきた。
 その後方で、ウーニャがニッコリほほ笑んでいるので、どうも彼女が連れてきたのだろう……って、思っていると
「ぼっちゃま? なんでもウーニャまで置いてけぼりだったんですかにゃ?」
 って、すごい剣幕ですごまれてしまい……
 それはその、食事が済んだらすぐ戻るつもりだったからであって……

 とまぁ、結局、そのままなし崩しで、宴会は大盛り上がりになってしまい、途中からは宿に宿泊していた他の冒険者達まで巻き込んだ大宴会に突入し、宴会場は、未明まで皆のにぎやかな声で満ちあふれていた。