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 天の光のアジトが完全に燃えつき、建物の内部にあったのだろう薬も燃え、その薬が燃えた結果出た煙までもが完全に燃えつきたのを確認したレイは、ラザリアに視線を向ける.

「取りあえず、そろそろここから出るぞ. 今は周囲にいる連中も天の光のアジトが燃えたことにショックを受けているだけだが、このままここにいれば、いつ我に返って行動を起こすか分からないしな」
「……そうですね. そうした方がいいでしょう」

 レイの言葉に、ラザリアも同意するように頷く.
 ラザリアが天の光という組織にどのような思いを抱いていたのかは、レイにも分からない.
 だが、少なくても憎んでいたのは間違いなかった.
 そんなラザリアの様子を一瞥すると、レイは持っていたデスサイズの石突きを地面に触れさせ、スキルを発動する.

「地形操作」

 その言葉と共に、レイ達がいた場所を囲っていた土の壁の一部だけが崩れ、レイとラザリアが通れるだけの隙間が空く.
 レイは元々小柄だし、ラザリアも女としては決して身長が高い方ではない.
 だからこそ、今の状況では特に問題なく小さな隙間からでも外に出ることが出来た.

「行くぞ. 出来るだけ早くセトと合流して、ここから離れたい. ラザリアも、ここにいる連中のことを考えれば、早く黒犬のアジトに戻った方がいいだろう?」
「そう、ですね. ……ええ、そうです」

 天の光のアジトが消滅したことに色々と思うところがあった様子のラザリアだったが、レイのその言葉で少しだけ我に返る.
 ここにいるジャンキー達は、今は嘆いていたり、騒いでいたりはしているが、あくまでもそれだけだ.
 だが、このまま放っておけば、間違いなく将来的にはスラム街の他の場所に行き、禁断症状から暴れ出す.
 場合によっては、スラム街から出て暴れ出す可能性もあった.
 そうなれば、ダスカーとしても当然のように厳しく取り締まる必要がある.
 そして厳しい取り締まりとなれば、スラム街の方にも被害が及ぶのは確実だ.
 だからこそ、黒犬は……いや、一定以上ギルムの事情を知っている者なら、そのような真似をせず、ジャンキー達をどうにかしたいと思うのは当然だった.
 だが、そうなればなったで、スラム街の住人だけに単純にジャンキー達は殺してしまえば手っ取り早いと考える者も多い.
 黒犬としては、そのような真似は許容出来ない以上、全員とは言わないが、それでも可能な限り助けたいというのが、黒犬の思いだった.

「分かりました. すぐに行きましょう. ……レイさん、悪いですけど、組織を潰す件は……」

 ラザリアが最後まで言うよりも前に、レイは頷く.

「分かってる. そもそも、天の光を潰したら今日はもう切り上げる予定だったしな」

 ギルムに来てからの違和感の件が解決していなければ、レイももう少し頑張って他の組織を潰した可能性があるだろう.
 だが、違和感の件は道化師の組織を潰した時にダーブを殺して解決している.
 ……もっとも、ダーブの身体のことを思えば、殺したというよりは壊したという表現の方が相応しいのだろうが.
 ともあれ、ダーブの本体とも言うべき相手はまだ生きてる可能性があるのだが、取りあえず一番重要だった違和感の件は解決した.
 そうである以上、レイとしては無理に今日他の組織も潰すのはどうかと、そんな風に思ったのだ.

「ありがとうございます. では、黒犬のアジトに戻りましょう」
「ああ、そうだな. ……いや、そう言えば黒犬のアジトに行くよりも前に、やっておくべきことがあったな」

 レイは風の牙のアジトの一件を思い出す.
 暁の星の面々に地下室に続く場所を見つけるように言って、向こうに任せてきたのだが、今日やるべきことを終わらせた以上、そちらの一件も片付けてしまいたいと言うのが、正直なところだった.
 レイがいつ戻ってくるのかは暁の星の面々も分からないだろうから、今頃必死になって地下室に続く隠し通路、もしくは隠し階段を探している筈だった.

「え? ……ああ」

 ラザリアもレイの言葉で風の牙の一件を思い出したのか、納得したような様子を見せる.
 だが、次の瞬間にはそんなレイに、ラザリアは頭を下げる.

「じゃあ、すいませんけど僕は一旦アジトに戻りますね. 今回の一件について、少しでも早く知らせておいた方がいいと思いますし」
「ちょっと待った」

 すぐにアジトに戻ろうとするラザリアだったが、レイはそれに待ったを掛ける.
 どうしました? と疑問の視線を向けてくるラザリアだったが、レイとしてはここに置いていかれるのは困る.
 ラザリアはスラム街に詳しいので、ここからでも黒犬のアジトに帰るのは全く何の問題もないだろう.
 だが、スラム街の中でも裏道を通ってここまでやって来たのだ.
 初めて来るような場所でここに置いて行かれたら、レイがスラム街から出ることや、風の牙のアジトに向かうような真似が出来るかと言われれば、それは難しい.

「裏道を通って移動してきたのに、俺とセトをここに置いていかれると、困るぞ」
「あ……」

 ラザリアもレイの言いたいことは分かったのか、小さく言葉を漏らす.

「そんな訳で、俺とセトを風の牙のアジトまで連れていってくれ」

 それこそ、いざとなればセトに乗って移動すれば、スラム街から出ることも容易ではある.
 だが、スラム街であってもセトに乗って飛び回るのは色々と不味いだろうと判断し、レイとしてはやはり歩いて移動した方がいいと思ったのだ.

「そう、ですね. ……分かりました」

 ラザリアが少しだけ残念そうに、そう告げる.
 ラザリアとしては、出来れば少しでも早く黒犬のアジトに向かいたかった.
 だが、レイをここに置いていくような真似が出来る筈もない.
 そんなラザリアに、レイは落ち着かせるように話し掛ける.

「取りあえず、風の牙のアジトに俺達を連れていってくれれば、お前は黒犬のアジトに戻ってもいいから、そこまでは案内してくれ」
「え? でも、風の牙のアジトからはどうやって……?」
「暁の星の連中がいるだろ. あの連中もスラム街にやって来たんだから、あの辺から出る方法も知ってるだろうし、黒き幻影のアジトも知っててもおかしくはない. もしかしたら黒犬のアジトの場所まで案内出来るかもしれないな」
「……なるほど」

 レイの言葉を素直に全部信じた訳ではなかった.
 だが、スラム街での事情に詳しい者なら、黒犬のアジトまでレイ達を案内するというのは難しい話ではない.
 であれば、風の牙の場所まで案内すれば……と、そうレイの言葉に頷く.

「分かりました. では、レイさんのお言葉に甘えて、そうさせて貰います」

 レイを連れて風の牙のアジトまで戻り、その後アジトでのやり取りが終わるのを待って、それが終わった後は黒き幻影のアジトまで行き、そこでもアジトを破壊してと、そんな真似をするのを待っているよりは、さっさと風の牙のアジトまで連れていった後で、自分はさっさと黒犬のアジトに戻ればいい.
 そう判断し、レイを急かしながら移動していると……

「グルゥ!」

 レイとラザリアの姿を見つけたセトが、嬉しそうにやってくる.
 ……まだ周囲にはジャンキーがいるのだが、レイ達はそれを特に気にした様子はない.
 天の光のアジトからはかなり離れたので、アジトが消滅したことで薬がもう手に入らないと騒いでいる者達の姿はないからだ.
 もっとも、レイ達を見つけて騒ぎ出すような者はいたが.

(あ、そう言えば俺達を見つけて知らせれば薬が貰えるとか、そんな話だったか)

 当然今の状況で騒いでも、既に天の光の拠点そのものがないのだから、薬を貰える訳ではない.
 だが、薬によって興奮している今の状況では、そのようなことも分からないのだろう.
 レイとしても、ここで暴れられたりしたら面白くないので、襲い掛かったりしてこないのは助かる.
 そんな訳で、レイはセトを撫でながらこの場から離脱する.
 ジャンキー達は、天の光のアジトに近付けば近付く程に多数配置されていた.
 それはつまり、天の光のアジトから離れれば離れる程にジャンキーの数も少なくなるということだ.
 だからこそ、レイ達はなるべく早く天の光のアジトから離れたかった.
 ラザリアの案内で裏道や狭い道を進み、やがて目的の場所……風の牙のアジトに到着する.

「こうして見る限りだと、特に何かがあったって訳じゃないみたいだな」

 建物の周囲には、スラム街の住人も誰もいない.
 風の牙のメンバーが非常に攻撃的だと知っているからこそ、迂闊に近付けば死ぬかもしれないと、そう思っているのだろう. ...I understand why the inhabitants of the area are not approaching because their main job was assassination.
 It's probably the only outside lookout. Only one of the members of the Dawn Star was exploring the surroundings outside the building.
 And as long as you're on guard, you'll notice Ray approaching you as a matter of course.
 Not only Ray and Lazaria, but if you don't notice that Seto is with you, you'll be disqualified as a lookout.

"What!? Are you back already?"

 A voice of astonishment came from the watchwoman's mouth.
 The dawn stars know that Ray had set out to destroy a different organization from the wind's fangs.
 I thought I'd come back in time, but I still thought it would take a reasonable amount of time because I was going to destroy an organization that was able to survive in Gilm, not in that area.
 In fact, after destroying the clown, he burned up the heavenly hideout from the outside, so in that sense, what the watchwoman thought was right.

"Oh, I've destroyed two organizations, the clown and the light of heaven. Have you found any stairs or doors that lead to the basement?"
"Yes, no..."

 All a woman can do is answer Ray's question and shake her head.
 Originally, I'd like to ask for a little more time.
 At least the watchwoman has not yet been informed that she has found any stairs or doors in the building that lead to the basement.
 Maybe... really, if I had a little more time, I might find it without any problems, but I don't think Ray will give me time.

"Well, Mr. Ray. Then I'll excuse myself."
"Okay, I can leave them all to you, right?

 In Ray's words, Lazaria nodded that it was natural.
 For Lazaria, he had a strong determination to treat those junkies as a job for Black Dogs.

(As expected, something must have happened in the past in relation to drugs. ...I don't think I should ask that.)

 Judging so, Ray says hello to Lazaria and breaks up.
 Seto also said goodbye to Lazaria with a growling voice.

"And back to the subject,"

 After Lazaria disappears, Ray looks at the watchwoman again.

"As promised, by the time I came back, I couldn't find the stairs and doors leading downstairs. If that's the case, this building will burn everything down. Is that all right?"
"...yes."

 After a few seconds of silence, the woman nods so.
 I thought Ray would complain if he wanted me to wait a little longer, but I was surprised.
 Anyway, the sun is already quite close to the setting sun.
 If so, I will open my mouth to finish it quickly.

"Then bring the people inside,"
"All right."

 Before the woman entered the building, she heard a grinding sound, but Ray had nothing to say about it.
 This is because I understand that whatever I say here, it can be an insult to the stars of dawn.
 Or will you ask for a little more time?
 It is highly likely that no further search of this building will end up finding stairs and doors leading to the basement.
 If that's the case, we can't waste time here.
 After this, a black phantom hideout...

"Ah!"

 Ray, who had forgotten to ask the woman as she entered the building where the black phantom hideout was, speaks briefly.

"Guru?"

 When Seto hears Ray's words, he asks, "What's the matter?"

"No, it's nothing. You've failed a bit. ... well, if it comes to the crunch, we can get on the set and move."

 For the time being, expecting the dawn stars to know the black phantom hideout, soon the dawn stars appear from inside the building.
 He may have heard the situation from the woman, but he really seems surprised that Ray came back so early.
 However, it was a good impression for Ray that no one wanted more time when they saw him.

"Well, then... I'm going to burn it, is that okay?"

 The dawn stars nodded back to Ray's question.