48-048・Moonlight Wind
彼女たちの足が止まったのは、乗合馬車の乗降場から歩き始めて、およそ40分後だった。
(お、王都ムーリアって、広い!)
さすが30万人都市。
人混みの中を歩き続けて、ちょっと疲れた。目的地がわかってないから、僕には、余計に長く感じたんだ。
そして今、僕の目の前には、白い建物がある。
「ここが、イルティミナさんたちの冒険者ギルド?」
「はい」
彼女は頷き、
「冒険者ギルド『月光の風』――私たちの拠点です」
と、どこか誇らしげに言った。
その冒険者ギルドは、湖に面した王都の郊外にあった。
庭もあって、綺麗な建物だ。
白い大理石みたいな石で造られていて、『冒険』という名前に反して、爽やかな印象がある。水辺の白塔って感じだ。
今は、日が傾いているので、窓から灯りが漏れていて、なんだか幻想的に見える。
(ふむふむ。規模としたら、ちょっとした中企業って感じだね?)
前世の知識と照らし合わせると、そんな感想だ。
「行くぞ」
立派な門を潜り、石畳の通路を歩いて、キルトさんは建物の入り口に入っていく。
僕らも慌てて、あとを追った。
(おぉ~?)
入った途端、心の中で声をあげる。
まず建物の中は、3階部分まで吹き抜けになっていた。
正面中央には受付があり、綺麗なお姉さんが3人、座っている。
その手前には、たくさんの椅子が並んでいる。
ここは、お客様の待合席なのかな? 観葉植物も配置されていて、ちょっと落ち着いた雰囲気だ。
右側には、店舗が並んでいた。
武器、防具、魔法具、薬類、素材類などなど、色んな商品が扱われている。
左側は、大型のクエスト掲示板があった。
アルセンさんの宿屋にあったような物とは違って、もっと大きくて、細かく内容が分かれているみたいだ。
奥側には、別のカウンターがあって、3人の男の人がいる。
でも、なんなのかわからない。
受付の左右の奥には、上階に通じる螺旋階段が2つあった。
(2階は、食堂かな?)
いい匂いが、そこから漂ってくる。
渋滞で時間がかかったから、お昼抜きだったんだよね。うぅ……ちょっとお腹が鳴りそうだ。
3階の様子は、ここからは見えなかった。
そして、そんな僕の視界の中、この建物には、大勢の……本当に大勢の冒険者たちが歩いていた。
(うわぁ、みんな、強そう!)
武器と防具を身に着けた、戦う人たちの姿だ。
人間がいる。
身体の大きな、熊みたいな獣人さんもいる。
背の低いドワーフさんや、もちろんエルフさんもいて、
(肌が黒い! まさか、ダークエルフさん!?)
エルフの中でも、より希少な存在さえも目撃してしまった。
現在、ギルドにいる冒険者は、40人ぐらいだ。
彼らは、クエストを吟味していたり、商店で、武器や防具を買ったり、螺旋階段を登って、2階の食堂に向かったりしていた。中には、床に座って、傷の治療をしている人や、装備の手入れをしている人、パーティー同士で次のクエストのことを話し合っている人たちもいたりする。
(冒険者の生態を初めて目にしてるんだ、僕……)
あぁ、ちょっと感動だ。
そして、そんな僕と3人は、キルトさんを先頭にして、真っ直ぐ受付へと向かった。
すぐに気づいて、受付のお姉さんが立ち上がる。
「おかえりなさいませ、キルト様」
「うむ」
キルトさんは頷き、受付台にあった丸い魔法石に右手をかざす。
金色の紋章が輝き、
「キルト・アマンデス、イルティミナ・ウォン、ソルティス・ウォンの3名、赤牙竜ガドの討伐依頼より帰還した」
「照会を確認しました。お疲れ様でした」
「うむ」
受付のお姉さんは、何枚かの書類を示し、キルトさんはそれにサインする。
何してるんだろう?
首をかしげる僕に気づいて、イルティミナさんが優しく笑って、耳打ちしてくれる。
「ギルドや依頼者、保険ギルドなどに対する依頼完了証明書への署名です。今回の依頼は、アルドリア地方の領主アダム・リードからの、公的な依頼でした。その分、色々と報告も複雑なのですよ」
「ふぅん?」
よくわからないけれど、なんとなく役所が関わる手続きが面倒なのは、こっちの世界も一緒みたいだね。
書き終えたキルトさんは、こちらを振り返る。
「イルナ、牙をもらうぞ。鑑定を受け、証明書を受け取ってくる」
「はい」
大型リュックから、赤牙竜の牙が外される。
ドスン
床に下ろされた自分の背丈よりも大きなそれを、キルトさんは、結わえたロープを引いて、軽々と持ち上げた。
「ギルド長への報告も、わらわがしておく。そなたらは、2階で休んでいろ」
「よろしいのですか?」
「今日は、マールがいるからの。特別じゃ」
頼もしく笑って、牙を担いだ彼女は、1階の奥へと歩いていく。
あの奥のカウンターは、どうやら、討伐した魔物を解体して、素材にしたり、討伐証明の素材を鑑定する場なのかもしれない。
銀髪の揺れる背中を見つめ、それから僕は、隣のイルティミナさんを見上げる。
「全部任せて、いいのかな?」
「キルトが言うのです。今回は、その言葉に甘えましょう」
イルティミナさんは微笑み、ソルティスは「ラッキー♪」と指を鳴らす。
そうしてイルティミナさんに手を引かれて、僕らは、2階に通じる螺旋階段に向かった。
登っていく途中で、ふと階下を見る。
「お! 鬼姫様のご帰還か!?」
「お疲れ、キルトさん!」
「今回は、ずいぶんと遅かったな? 心配したぞ」
「おいおい、コイツは鬼姫キルトだぞ? 心配なんか必要ねえよ」
「おかえり」
「うわ~い、キルトぉ~!」
金印の魔狩人に気づいて、多くの冒険者が声をかけていた。
(おぉ~、さすが有名人)
キルトさんは「皆、ただいまじゃ」と笑って、気さくに応対していた。
やっぱり、所属する冒険者ギルドだけあって、知り合いも多いみたいだ。そして、みんなからも信頼され、人気がある感じだね。
「…………」
キョロキョロ
周囲を見てみる。
でも、イルティミナさんやソルティスの近くに来る冒険者さんは、いないみたいだ。彼女たち姉妹の存在に、気づいている人たちはいるけれど、声をかけてくる人は、1人もいない。
(……友だち、いないのかな?)
余計な心配をする僕である。
でも、2人とも、気にした様子もなかった。
(まぁ、もしかしたら、2人の知り合いは、他のクエストでいないだけかもしれないしね)
うんうん。
「? どうかしましたか、マール?」
「ううん、なんでもない」
首を振って、
「大丈夫。僕がいるしね」
「???」
1人で納得する僕に、イルティミナさんは、美しい髪を揺らして、首をかしげるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
2階は、やっぱり食堂だった。
(いや……食堂というか、レストランだね?)
各テーブル席には、照明も飾られ、全面ガラス窓の壁からは、夕日に照らされる湖が見えている。海のように広大な湖からは、絶え間ない波の音が、心地好いリズムで聞こえてくる。
外に出る扉もあって、テラス席も用意されていた。
うん、とってもお洒落だ。
「せっかくですので、テラス席にしましょうか?」
「うん!」
「どこでもいいわよ、さっさと食べましょ」
笑い合う僕らを置いて、ソルティスは、1人で先に行ってしまう。
やれやれ。
食いしん坊少女は、相変わらずだ。
苦笑しながら、僕らは、テラス席に向かおうとした――その時、途中のテーブル席から、ちょうど食事が終わったらしい女の人が立ち上がる。
彼女は、レストランを出ようと、こちらを向いて、
「あれ? イルナさん?」
と、驚いた顔をした。
(おや、知り合い?)
その女の人は、17、8歳ぐらいの若い獣人さんだった。
艶やかな赤毛をポニーテールにしていて、その頭部から、2つの獣耳が生えている。スカートの穴からは、髪と同じ色の尻尾がクルンと丸まっていて、今はそれがパタパタと左右に振れている。
とてもキュートな美人さんだった。
でも、その格好は、冒険者のものではなくて、受付のお姉さんたちと同じ制服だった。
多分、ギルドの職員さんだ。
翡翠色の瞳を丸くして、赤毛の獣人さんは、笑った。
「やっぱり、イルナさんだ! よかった、帰ってたんですね!?」
「クー」
イルティミナさんは、短く呟く。
(クー?)
キョトンとする僕に、赤毛の獣人さんは気づいた。
僕の前にしゃがんで、目線を合わせると、自分の顔を指差して、笑う。
「私は、クオリナ・ファッセ。だから、みんなが『クー』って呼ぶの」
「あ、初めまして。僕は、マールです」
ペコッ
頭を下げると、クオリナさんは「わぁ、可愛い~!」と手を伸ばして、僕の髪を撫でてきた。わわっ?
「この子、どうしたんですか!? もしかして、イルナさんの弟?」
「違いますよ」
「ですよね。そんな話、聞いたことないし……じゃあ、まさかの恋人ですか!?」
「…………」
からかうクオリナさん。
でも、イルティミナさんは黙り込み、その頬がうっすら赤くなる。
クオリナさんは『あれ?』という顔になり、それから、驚いた顔になった。
「え!? え!? まさか、本当に!?」
「…………」
「だって、こんなに若い……え!? イルナさんの好みって、そういう年下……いやいや、いいんだけど……ひぇぇ」
「……少し黙りなさい」
恐れおののくクオリナさんに、イルティミナさんは、低い声を出す。
そして、大きなため息をこぼして、
「マールは、私の恩人です」
「え? 恩人?」
「私たちのことはいいんです、クー。それより、食事休憩は終わったのでしょう? ならば貴方は、自分の仕事に戻りなさい」
「うっ」
たしなめられて、クオリナさんは「はぁい」と肩を落とした。
耳と尻尾も、垂れさがる。
(ちょっと可愛い)
でも彼女は、気を取り直したように顔を上げ、
「だけど、無事に帰ってきてくれて、よかったです! キルトさんもいるのに、期日ギリギリになっても帰ってこないから、心配してたんですよ?」
「クエストは、予定通りに全てがいくわけではありませんよ」
「あはは、そうですね」
クオリナさんは苦笑する。
「それじゃ、イルナさん、私、行きますね? ――マール君も、ギルドのことで何かあったら、私に声かけて。力になるからね」
「あ、はい。ありがとうございます」
「うん、それじゃあね!」
元気に手を振って、ポニーテールをなびかせながら、彼女は去っていった。
(ん……?)
その歩き方が、少しぎこちない。
気づいた僕に、イルティミナさんが教えてくれる。
「去年まで、彼女は冒険者でした」
え?
「ですが、クエスト中、龍魚(りゅうぎょ)という水の魔物に、足を喰い千切られたんです」
「…………」
「回復魔法で、足の再生はしたのですが、後遺症が残りました。日常生活には、支障ありませんが、冒険者をやめざるを得ませんでした。それで今は、ギルド職員をやっています」
短い吐息をこぼして、
「私も一度だけ、パーティーを組んだことがあります。とても、素質のある娘でした。白印にまで辿り着いて、その先も狙えると思いましたが」
「…………」
そんな辛い過去を感じさせない、明るい人だった。
(でも、あの笑顔を取り戻すまで、どれだけかかったんだろう?)
それを思うと、心が痛い。
イルティミナさんは、きっと、クオリナさんのその時間も見てきたのかな?
「ごめんなさい、変な話をしてしまいましたね」
「ううん」
申し訳なさそうに笑うイルティミナさんに、僕は、首を振った。
ここには、たくさんの冒険者たちがいる。
そして、命を落とした人も、仲間を失った人も、大勢いるんだろう。
(やっぱり、冒険者って大変なんだ)
それを再認識する。
……あれ?
そして僕は、ふと思い出す。
「ソルティスは?」
「あら、そういえば……?」
ムシャムシャ パクパク
「2人とも、遅いわ」
「…………」
「…………」
ようやく見つけた彼女は、すでに料理の注文を済ませて、テラス席で1人先に食事を始めていたのだった……。
◇◇◇◇◇◇◇
「ま、回復魔法も万能じゃないから、仕方ないわね」
巨大なオムライスを食べる少女は、僕のしたクオリナさんの話を聞いて、そう言った。
「そうなの?」
「そりゃそうよ。回復魔法ってのは、投薬や手術と同じ、治療法の1つにすぎないわ。限界もあるし、失敗もある。だから、後遺症が残ることだって、たくさんあるわ」
そっか。
僕は、ようやく考え違いを理解する。
実は僕は、ファンタジー世界で一番凄いのは、回復魔法だと思っていた。
攻撃に関しては、前世の世界にだって、銃火器がある。赤牙竜だって、ミサイルでも撃ち込めば、倒せそうな気がしてる。
だから、負けてないと思った。
でも、回復魔法は別だ。
(だって、傷を一瞬で治したり、死者さえ生き返らせるんだよ?)
さすがにこれは、前世では有り得ない。
僕自身、体験したけど、これだけは、ファンタジー世界が優れていると思った。
でも、僕の転生した世界では、それが当たり前ではないらしい。
(僕は、運が良かったんだね?)
ゲームみたいに、敵の群れに突進して、HPを減らしながら敵を倒して、あとは治してもらって『はい、元通り!』なんて戦法は、この世界じゃリスクが高くて、そうそう使えないみたいだ。
「なるほどね」
自分のオムライスを口に運びながら、僕は呟く。
この2人も、そんなリスクを負いながら、冒険者をしているんだ。
いや、2人だけじゃない。
視線を動かせば、建物内のレストランにも、食事中の冒険者がいる。他の階にも、冒険者はたくさんいるはずだ。
(みんな凄いなぁ)
なんだか、頭が下がる思いだ。
そして、ふと思った。
「そういえば、イルティミナさん? このギルドって、何人ぐらい冒険者がいるの?」
突然の質問に、彼女は驚き、それから食事の手を止めて、教えてくれる。
「そうですね。『月光の風』は、まだ新参の冒険者ギルドなので、登録者は100人前後だったと思います」
「新参なの?」
「はい。設立されたのは、15年前です。キルトは、創設時から登録されている、数少ないメンバーの1人ですね。――ちなみに、『黒鉄の指』などの大規模なギルドになると、各都市に支部があり、登録冒険者数は4千人を超えますね」
お~、4千人か~。
じゃあ、クレイさんたちは、その中の5人なんだね。
ソルティスが、指の代わりに、チッチッとスプーンを左右に揺らす。
「数が多ければいいってもんじゃないわ。うちは、少数精鋭よ」
ふぅん。
聞き流す僕だったけれど、イルティミナさんが付け加えた。
「そうですね。このギルドは、登録者の9割が『魔血の民』ですので、質は高いですよ」
「9割!?」
それは凄い。
「『月光の風』創設者であり、現ギルド長でもあるムンパ・ヴィーナは、迫害される『魔血の民』の居場所として、このギルドを造ったそうです。設立当初は、嫌がらせなどもあったそうですが、今では、その戦力の高さで評価され、王国からの依頼も来るようになりました」
「へ~?」
ムンパさん、偉いなぁ。
会ったこともないけれど、ちょっと尊敬だ。
(あれ?)
ふと気づいた。
「ちょっと待って。ギルドの9割ってことは、まさか獣人のクオリナさんも『魔血の民』なの?」
「はい」
「……『魔血の民』って、人間だけじゃないんだ?」
驚く僕に、ソルティスが「馬鹿ね」と呆れたように笑った。
「人間、エルフ、獣人、ドワーフ……そういう種族を越えて、全てを含めた『人』の中に、魔血を持った子たちはいるのよ」
「へ~、そうなんだ?」
「ま、人口1000人に1人ぐらいが『魔血の民』よね」
妹の言葉を、姉が補足する。
「とはいえ、『魔血の民』は、人間や獣人が一番多いです。エルフやドワーフは、あまりいませんね」
「なるほど」
「特にエルフは、魔血の赤子が生まれると、すぐに殺してしまいますから」
…………。
エルフさん、残酷だよぉ。……ちょっとショック。
「でも……『魔血の民』って、見た目で全然わかんないよね」
目の前の2人も、クオリアさんも、普通の人と違わない。
いや、みんな美人だ。
もしかして、それが違い!?
「魔力を感じられる人なら、すぐにわかります。血の魔力が、10倍ぐらい違いますから」
「…………」
えっと?
「じゃあ、感じられない人には、わからない?」
「はい」
「魔力を感じられる人って、この世界に、そんなに大勢いるの?」
「いえ、むしろ少ないと思います」
え?
じゃあ、僕みたいに魔力を感じられない多くの人には、魔血のあるなしなんて関係ないじゃないか。
「残念ですが、魔力測定器を店先にぶら下げて、『魔血の民』を入店させない店などは、まだ王都にも多くあるのですよ」
「そこまでするの!?」
(どうして、そこまで……?)
唖然とする僕に、イルティミナさんは困ったように笑う。
「400年前の神魔戦争で、悪魔は、それだけの恐怖を人類に与えたんです」
「…………」
「そして神々は、その悪魔と戦い、そんな人類を救った。だから信仰に厚い人ほど、神の敵である悪魔を……その罪深い血を流す私たち『魔血の民』を、敵視するんですよ」
僕は、正直に言った。
「その人たちは、馬鹿だ」
「……え?」
「悪魔の血なんて、ただの血だ。罪でもなんでもない。そして罪のない人を傷つける行為を、神様は認めない。――むしろ、その人たちの方が、神様の敵だよ」
僕は、怒っていた。
いや、『マールの肉体』の方が怒っていたのかもしれない。
――神の名を、悪行に利用するな、と。
2人の姉妹は、ポカンと僕を見ていた。
そして、笑った。
「ありがとう、マール」
「フフッ……たまには、いいこと言うじゃない? ボロ雑巾のくせに」
2人とも嬉しそうだった。
いや、よく見たら、近くのテーブル席にいた冒険者の人たちも笑っている。
僕の話が、聞こえちゃったらしい。
「よく言ったわ」
「わかってるじゃねえか、ボウズ」
「全く、その通りだ」
なんか、褒められた。
中には、拍手をしてくれる人もいる。
(注目されたら、ちょっと恥ずかしくなってきたぞ?)
赤面する僕とは逆に、イルティミナさんは、ちょっと誇らしげだった。
でも、ソルティスは、苦笑して、
「でもさ、アンタはそんな怒んなくてもいいのよ?」
「え?」
「だってマールは、私たちと違って、『魔血の民』じゃないんだからさ。余計な苦しみは、負わなくていいのよ」
…………。
それは、彼女なりの気遣いの言葉だった。
でも僕は、ちょっと傷ついた。
(なんだか、1人だけ仲間外れにされた気分だね……)
う~ん。
夕日を見ながら、僕は考える。
「あのさ……このギルドって、『魔血の民』じゃないと入れないのかな?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
イルティミナさんが、不思議そうに否定した。
「登録されている冒険者の1割は、『魔血の民』ではありませんし、そんな条件もありません」
「そっか」
「あの、マール……まさか」
ちょっと不安そうに彼女が口を開いた時だった。
「おぉ、ここにいたか」
え?
不意の声に振り返ると、テラスへの出入り口に、銀髪の美女がいた。
「キルトさん」
「おかえりなさい、キルト」
「お疲れ~」
僕らは笑って、迎えようとした。
ようやく報告が終わって、キルトさんも、戻ってきたと思ったんだ。
(? キルトさん?)
でも、彼女はこちらに来ない。
ちょっと申し訳なさそうな顔をして、その黄金の瞳で僕らを――いや、僕だけを見ている。
「食事中にすまんな。じゃが、マールには、これから少し、わらわに付き合ってもらいたい」
えっと……?
イルティミナさんとソルティスが、戸惑う僕のことを見る。
そして、キルトさんは言った。
「我らが冒険者ギルド『月光の風』の長であるムンパ・ヴィーナが、マール、そなたに会いたいそうなのじゃ」