7-Something is wrong with my daily life.



 「こいつはオス……こいつはメス……こいつもメス……っと」
 「おう! カケル! それ終わったら今日は帰っていいぞ!」
 「了解っす! もう終わるんでお先に失礼しまーっす!」
 「それにしても、≪魂の加護≫持ちがバイトしてくれるなんてなあ! 助かってるぜ!」
 「この仕事ぐらいしか使い道ないですから!」
 「ははは! まあでもほどほどにな! たまには間違えるぐらいで丁度いいんだぞ!」
 「俺は完璧主義ですから! この加護があれば間違えるなんてありえませんから!」
 「はっはっは! さすが≪魂の加護≫持ちは言う事が違うな! おっと、いけねえ! ほれ、今日の分の給料! ご苦労さん!」
 「はい! あざーっす!!」

 俺は本日の給料を受け取り、そこを出た。
 向かうは仮の住まいにしている場所、宿屋である。

 「ただいまー」
 「おかえりカケル! 仕事はどうでした?」
 「まあいつも通りだな。それより今日の晩飯は?」
 「ふふん! 今日はアリア特製マルメドリの丸焼きですっ!」
 「・・・昨日も一昨日もその前もそうだった気がするのは気のせいだろうか」
 「気のせいですよ! それより早くお風呂入ってきてください! 鳥臭いです!」
 「わかったわかった」

 俺は鳥獣類独特の臭いがついた衣服を脱ぎ、風呂に浸かる。

 「はあ~、最高」

 やっぱり仕事終わりの湯舟ってのは癒されるなあ。
 俺はアリアとパーティーを組んだ後、ここ三週間ほど受付のお姉さんの紹介してもらったマルメドリのヒナの選別バイトをしていた。
 マルメドリとは鳥型の小型モンスターなのだが鳥なのに飛べず、その肉は肉汁がたっぷり詰まってぷりぷりして大変美味しい。しかも一月に一個卵を産むという畜産に持ってこいのモンスターだ。その雛がオスかメスかの判断は非常に難しく、長年やってるベテランでも間違うことがよくあるそうだ。聞いた話では判定官として採用された際には月給にして40万サリーにもなるという。
 まあマルメドリは地球でいう所のニワトリみたいなもんだ。ニワトリの肉よりもマルメドリの肉の方が旨いけど。
 ギルドから生活準備金が支給される、なんてことはなく一日一日を生きていくには働かなくてはならない。運よく≪魂の加護≫を持っていた俺は、給料の良い判定官のバイトを斡旋してもらい、今の生活を手に入れることができたというわけだ。
 駆け出しの冒険者は野宿したり馬小屋で寝たりなんかするらしいのだが、俺は本当に運が良かった。
 なんたって風呂に浸かれるんだから。





 「うん! やっぱマルメドリの丸焼きは最高にうまいな!」
 「当たり前です! この神である私が作ったんですから!」
 「焼いただけだろ」
 「違いますう! 私がマルメドリに合った調味料を私が選んで味付けしたんですう! だから私の料理なんですう!」
 「いやあマルメドリは本当にうまいなあ!」
 「ですね! ですね! あっ! カケル! このスープもどうぞ! マルメドリから出汁を取ったスープなんです! 自信作です!」
 「どれどれ……」

 これはっ!? コンソメ!!

 「どうです? どうです!?」
 「うまいっ!!」
 「ふふん! 当然です!」
 「マルメドリに感謝を!」
 「感謝をー!」

 俺たちはマルメドリに感謝しながら舌鼓(したつづみ)を打った。

 「って、違くね?」

 俺は手に持った肉を置き、言った。

 「何がです? 味付けがおかしかったですか?」
 「いや、そうじゃなくて。 なんで俺たちこんな生活送ってんの? 毎日毎日マルメドリマルメドリ。仕事でもマルメドリ、家でもマルメドリ。頭おかしなるわ」
 「……? 一体何が不満なんです? 毎日安定した収入があり、おいしいお肉が食べられる。何の問題もないじゃないですか。本当に頭おかしくなったんじゃないですか?」
 「頭おかしくなったのはお前だろ!」
 「なっ!?」
 「いいか、俺たちは冒険者なんだぞ? 毎日毎日オスとかメスとか見分ける仕事をやるために冒険者になったんじゃないんだぞ? アリアだって家事をやるために冒険者になったわけじゃないだろ?」
 「へっ?」

 へっ? じゃないだろ。こいつ本気で忘れてたのか?

 「少なくとも俺はだな、モンスターを倒してレベルアップ! 手強いモンスターと手に汗握る戦闘! とかさ! そういう冒険を求めてるわけなんだよ! 平和な日常に刺激が欲しいわけ、あんだすたん?」
 「あんだすたん? ……まあ、一理ありますね。私たちは冒険者。まあ私は冒険者見習いという立場ですが。シリウスがいるとはいえモンスターや魔王なんかが目の前に現れた時何もできないのでは冒険者の意味がありません」

 こいつシリウスに魔王倒してもらおうとか思ってたな。自分で魔王なんて倒しちゃいますからとか言ってたくせに。

 「だろ? ちょうど休暇取る予定だったからさ、明日はギルドに行ってクエスト見てみようぜ」
 「カケルの言い分は分かりました。ですが、何の装備も無くモンスターと戦うのは危険なのではないですか?」
 「ん? 何言ってんだ? アリアがいるじゃん」
 「ええっ!? こんなか弱い女の子にモンスター討伐を一任するなんてカケルはそれでも男ですか!?」
 「だってさ、仕方ないじゃん。 俺だってお前みたいな年下の女の子を前線に送り出すのは気が引けて仕方ないよ? でもさ、アリアは言霊魔法とかいうチートがあるわけで、逆に俺には魂が見えるとかいうモンスター討伐には何の役にも立たないスキルしかないわけで。だったらさくっとアリアがモンスター倒してくれた方が効率的に経験値貯められるんじゃねーかって話になるわけだよ」
 「さっきカケルはモンスターと手に汗握る戦闘がしたいって言ったじゃないですか!? 刺激が欲しいって言ったじゃないですか!?」
 「言ったよ? でもそれは俺がある程度戦えるスキルや魔法を覚えてからの話」
 「むー……でも……」

 え? 何でもじもじしてるのこの子? 照れるような事言ってないだろ。

 「大丈夫、アリアに頑張ってもらうの最初だけだって! 万が一の為に装備は整えていくしさ! それにクエストの最中に経験値が溜まって新しいスキル覚えるかもしれないじゃん!」
 「じ、実は……ですね」

 もう一押しか。

 「しかも神さまなんだろ? 神さまがこの街周辺のモンスターに遅れを取るなんてありえないだろ。よっ! 神さまアリア!」
 「仕方のない男ですね! カケルは!」

 はいちょろい。

 「っし! じゃあ決まり! 明日は武具屋に行ってその後クエストな!」
 「はい! 見せてあげますよ! 神の力を!」